第21話 蘇る気配

 それは、遠い反応。ともすれば、深夜にもかかわらず街のあちこちから聞こえてくる微かな歌にかき消されてしまうほどの、ほんの微少な、もはや気配とでも言うべき、かそけき信号。けれどその持つ意味は、キルビナント・キルビナを戦慄させた。


 ハルカヤ百三十億の民の記憶、彼の中にのこされた情報の中に、解答はあった。反応が小さすぎて、距離も位置も特定できない。だが間違いない。奴だ。奴がいる。この惑星にもまた、あの歌う魔物がいるのだ。


 思えばこの惑星の新創世は、ハルカヤの最期に似ていた。ならばこの惑星に奴がいるのは必然なのかも知れない。ただ、魔物は惑星を滅ぼした後、その姿を消すのではなかったか。少なくともハルカヤにおいてはそうだった。新創世は二百年前。なぜそのときに魔物は姿を消さなかったのか。


 いや、待て。本当にこの惑星に奴が存在し続けたのだとするのなら、どうしていままでその反応を感じることができなかったのか。この二百年間、この惑星の隅々まで旅したというのに。それはつまり、奴は一度は姿を消したと考えるべきではないのだろうか。


 だが奴は再びその姿を現そうとしている。すなわち、この惑星に改めて最期の瞬間が近づいているということだ。しかしなぜ。二百年の時を超えて再び惨禍を繰り返す理由は何だ。いったい何が起こっている。


 キルビナント・キルビナは足を止めると、己の中の強大な熱量に意識を向けた。それは彼に与えられた、たった一つの、そしてただ一度だけ使える武器。けれどこれを使うということは、事実上彼に与えられた任務の放棄を意味する。つまりこれを使うより前に、任務を完了しておく必要があるのだ。


 キルビナント・キルビナは歌声の響く暗い街を再び歩き出した。まだ見ぬ相手を、ハルカヤ百三十億の民の記憶を継ぐ者を探すために。

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