第15話 ハルカヤの記憶

 それは緑に輝く星。地球より幾分直径が小さく、地球より幾分惑星表面における海洋の割合が高く、地球より幾分地軸の傾きが大きかったが、地球によく似た環境の惑星。そのとき惑星ハルカヤには、高度な文明を持った百三十億の民が暮らしていた。


 異変はある日突然に起こった。ハルカヤに棲息する動物が、植物が、人の言葉で歌い出したのだ。それは前触れ。やがて極地の氷が溶け、世界を水が襲った。嵐が天を裂き、地震が大地を割る。瞬く間に連続して起きた天変地異に人々は為す術もなく、ただしかばねを積み上げるのみ。


 ほんの一部の者たちだけが、何隻かの恒星間宇宙船に乗り込んでハルカヤを脱出することに成功した。しかし食料も持たず、ハルカヤからのナビゲーションも受けることができなかった宇宙船は、どれも一ヶ月と経たぬ間に幽霊船と化してしまった。


 ただ、船内は完全な無人となった訳ではない。少数の機械生命体が生き残っていた。宇宙船の動力が稼働している限り生き続けられる彼ら機械生命体は、宇宙船を操り、崩壊したハルカヤを後にした。


 こうして目的地も定めぬまま恒星間跳躍を繰り返した宇宙船の一つが、偶然太陽系辺縁部に辿り着いた。そこで地球の存在を知った機械生命体たちは、自らの身体を分解してパーツを持ち寄り、一体の地球人型機械生命体を作り上げる。『栄誉ある任務』を意味する『キルビナント・キルビナ』と名付けられたこの機械生命体は、地球へと下ろされた。ハルカヤ百三十億の民の記憶を後代に伝える任務を与えられて。


 それから二百年の時が流れた。だがキルビナント・キルビナはまだ与えられた任務をまっとうできていない。彼に与えられた寿命は間もなく尽きる。キルビナント・キルビナは焦っていた。

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