第4話 始まりの夢

 おいらロボ之助。助っ人ロボットだからロボ之助。掃除、洗濯、犬のお散歩、何でもできるよ。空だって飛べるんだから。


 おいらが生まれたのは天照あまてる市。道路が広くって、緑がたくさんあった街。高い山があって大きな川があって、立派な鉄橋がかかっていた素敵な街。小学校から大学まであって、遊園地もあったんだよ。とってもとっても良い所だったんだ。


 町の真ん中にはアマテル自動車っていう大きな会社があって、町の人たちはみんなそこで働いていた。おいらを創った博士もアマテル自動車の社員だった。ロボット研究所で所長をしてたんだよ。博士はね、アマテル自動車の社長さんの幼なじみなんだって。だから好き勝手しても怒られないんだ、って博士は言ってた。ひどい話だよね。だけど、博士を嫌いだっていう人は、あんまりいなかったなあ。


 そんな天照市でおいらが生まれたのは、夏のとってもとっても暑い日。外では太陽がカンカンに照りつけて、みんなグッタリしてたんだって。


「おう、目え開けろ」


 それがおいらの聞いた最初の言葉。その後ろではセミがジュワジュワ鳴いてたんだけど、そのときのおいらはセミなんて知らないから、ただうるさいなあ、って思いながら目を開けたんだ。目を開けたおいらの前には、ぼさぼさ頭でガラパン一丁の男の人がいた。あ、ぼさぼさもガラパンもそのときには知らなかった言葉なんだけどね。


 その人が大邦博士。おいらの生みの親。だけどそのときのおいらには、それがわからない。何にも知らなかったんだ。


「俺が誰かわかるか」


 博士がおいらに尋ねた。


「わかんない」


 そう答えた。そのときのおいらには、本当にわからなかったから。だって博士って言葉も、そしてQPって名前も知らなかったんだもの。博士の隣に立っていたQPは呆れていたなあ。


「自分の創造主もわからないとは。あーあ、失敗ですか」


 QPには顔がなかった。全身は青いプラスチックで覆われていて、人型はしているけど、顔の部分にはキラキラ光る電子回路が見えていた。表情は顔がないからよくわからないはずなのに、がっかりしているのはよくわかった。何でだろう。でも博士は残念がってはいなかったよ。


「いいや、成功だ」


 博士は嬉しそうに、顔をくしゃくしゃにして喜んでたんだ。


「こいつの頭にゃまだ情報らしい情報は何も入れてねえ。ほぼサラッピンの状態だ。なのにこいつは、自分が何もわからねえってことを理解してやがる。数学的に言やあ、生まれつきゼロの概念を理解してんだよ。成功だ。ハートシステムは完成した」


 いったい何を言ってるのか、おいらにはさっぱりわからなかったけど、嬉しそうに踊り出した博士を見てると、おいらも楽しくなってきて、一緒に踊り出したんだっけ。踊るって言葉も知らなかったけど、体が勝手に動き出しちゃったんだよね。そうそう、QPには顔がないのに、困っていたのがすっごくわかって、面白かった。


 ああ、懐かしいなあ。みんなどうしているんだろう。大邦博士は、QPは。なんだか不思議な気分。もしかして今、おいらは夢を見ているんだろうか。ロボットなのに変なの。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る