悪にも礼儀(2)

「ここどこですか?!」


『いわゆる集会場のようなものになります。』


 ワープした事に心咲が気づいていないのはいつも事なので案内人も特に詮索はしないようだ。


『はい、予定のない日はこちらにおこしいただけるとありがたいです。』


「ここでは何をするの?」


『ゲームとなんら変わりはありません、ミッションの受注、他の悪との交流など』


 ふと後ろに振り返ると心咲の背丈の2倍程の重厚な扉が平らな空間に置かれていた。後ろに建物などはなく、ただ扉だけが佇む。


『では、行きましょう。』


 恐る恐るドアノブに触れ、重厚な扉を力いっぱいに押し出す。


「意外と綺麗なんだなぁ」


 周りを見渡しながら奥へと進む、もっと不気味な感じかと思っていたけれどなんか怖いくらいに綺麗なんですけど。


「なんか宮殿?みたいな感じだね」


『そうですね、今のマスターの趣味なんでしょう。』


「マスター? なにそ……うわ!」


 疑問を問いかけようとした瞬間に体を突風のようなものに吹き飛ばされる。しかし、突風というよりはなにか衝撃のような感じだ。


「うわわわ!っと」


 自然と体が空中で1回して地面へと着地する。正直内心かなり驚いてしまった、、自分がまるであにめの中の人のようにアクションを軽々のこなしてみせたのだ。


「おぉ〜結構やるねぇ!」

「すごいすごーい!」


 どこからか数人の声が聞こえたと思う間もなく次々と攻撃が飛んでくる。


「なになになにぃ〜!」


 必死に走り逃げるが止む気配のない攻撃、いくら運動神経が良くなっても流石に疲れる。


『反撃されてはどうですか?』


「反撃ってどうやるんですか!?」


『・・・』


 反撃の仕方を教えて欲しい、言ってから気づきました。なんて救いようのない質問なんでしょう。

 案内人さん、何でも頼ってすみません。


『スキルを使われては?』


「あ!そっか!」


 走ってる体を180回転させ急ブレーキ、体を低重心にし力を込める。すると手の中に黒い球体が出現する。


「これでいいんですよね!」


『はい、立花様の特殊スキルである空間操作は空間を自分の思うがままに操る力、切るも曲げるも潰すも立花様の思うがままです。』


「当たってぇ!」


 自分の胸の前で勢いよく手をクロスさせると、目の前の景色に黒い一線が重なる。とその瞬間、線に合わせて景色は切断された。


「うわわわわ!なにこれ!」


「くっ!」


 すると切断された建物の二階部分や影から数人の人間?が姿を表した。一人はかなり小柄でケホケホと砂埃にむせているが他の面々はかなり警戒しているようだ。


「何者だ!貴様!」


「えと、あの、昨日ランク100になって!その〜ここに来たら他の人に会えるって言われて」


 自分でもわかるぐらいパニックになっていた、目の前には8名ほどの少女がいるが皆かなり個性的な格好をしている。正直怖い。


「これが先輩への挨拶ってことかぁ?」


 黒いショートカットに可愛らしい2本のツノ、肩にかけている棍棒も相まってまさに『鬼』を連想させる少女が近づいてきた。


「いや!そんな事ないです!ごめんなさいごめんなさい!許して下さい!」


 必死に頭を下げる、ひたすら下げる事しかできなかった。下げる事を止めればなんだろう、死ぬ気がする。すると


「ぷっ…あはははは、おもしろいなぁ!お前!」


 先程の鬼の少女がお腹を抱えながら大笑いをしだした。笑いに気づき前を向くと頭をもみくちゃに撫でられる。


「うわわわ、なにするんですかぁ?!」


「ごめんなさいごめんなさいって、ひひ。可愛いなぁ」


 私が全く状況を理解出来ず呆然と鬼に絡まれていると、優しい声が聞こえてきた。


「大丈夫?いきなりごめんなさいね、オグリス?あんまり絡んだら駄目よ?」


「あーい、でもミズ姉も聞きたい事いっぱいあるんでしょ?」


 鬼とは正反対にスラッしたスタイルに高貴な貴族を思わせるドレス、それに心を震わせるような透き通る声。


「先程のは試験のようなものですよ、貴方が正しい行動が出来るかどうかのね」


「正しい行動?」


「えぇ、この場合の正しい判断は反撃できるかね」


 試験だと聞かされてガクっと崩れ落ちてしまった。生まれて初めて死を覚悟しました。


「悪かったね、僕達もそこまでやる気はなかったんだけどね」


 ボーイッシュに青い綺麗なん髪がとてもよく目立つ背の高い女性が頭をなでる。


「まっ、あそこまで盛り上がっちゃったのは君のあの力をみたからだけどね」


「空間操作…また凶暴なのが出ましたね」


「ミズ姉にはかなわいっしょ!」


「私のはそんなに強力ではありませんよ、ただ使い方が応用しやすいだけです」



「とりあえず、いい人達なのかな?」


 個性が強い面々ではあるが怖い人達には心咲には見えなかったようだ。人を疑わないのも心咲の弱点であり長所であった。


「でなんて名前なの?」


「え…たt」


 咄嗟に口を抑えた、本名を言うバカがここにいる。


「まだ決まってないんです」


 エヘと頭を撫でながら笑う、その笑顔を正しく天使のような物であった。その場にいた8人はその笑顔でもうイチコロであった。


「お、おう!そなのか!」


「なら皆で決めましょうか」


 なぜ皆が少し赤面しているのかは心咲には理解出来なかったが、皆いい人だと安心するばかりであった。











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