悪にも礼儀(1)
『おめでとうございます。無事に転生が完了致しました。』
そんな言葉が耳に入らない程に私は高揚し、混乱していた。目の前の鏡には自分ではない、なにかが映っているのだから。
「これ、私?」
体の至る所を手で確認するがどうやら間違い無いらしい。普通なら此処で喜ぶ所なのかもしれないけど、私はそうもできなかった。理由は簡単だ、
「あの〜案内人さん?」
『私ですか?なんでしょう。』
「えっとね、この姿なんだけどさ」
『はい、とてもよく似合っておられます』
「いやね、そうじゃなくて」
そう、似合ってるとかそういう問題ではないのだ。普通、いや普通なのかは知らないけど、こういう時はゲーム内での姿が連想されたり、自分の心の願いが反映されたりすると思うんです。
「この格好、なんも心あたりないんだけど」
ゲーム内での私のアバターの姿は完全に無骨な重戦士、どう間違ってもこんな可愛いアバターにはならいないのだ。なんだか、頭上に大きなリングがあるし、これでは『悪』というよりは天使だ。
『誠に勝手ながら、アバターの外見はこちら側で決めさせて貰っております。』
「あっ、そうなんだ」
『悪のアバターには個体それぞれに外見にあったスキルが習得されます。立花様の場合は天使の外見にあったスキルなのでしょう。』
「そのスキルって確認できるの?」
『はい、通常通りにゲームのホーム画面の方から確認が出来ます。』
天使の姿に似合うスキルといえば回復や味方に対するバフなどが思いつく。内心少しワクワクしながら確認すると、私は絶句する。
「なに、このスキル」
『確認されましたか?立花様の力はー』
「ん、眩し…」
まだ眠いせいかだるい体をゆっくりと起こす。夜に見た事は夢だったのだろうか、すぐにスマホを確認するとそこには昨日の天使のアバターが映っていた。
「夢じゃないんだ、本当に現実になったんだ」
姿こそ自分の思い描くものには違ったが、憧れていた『悪』になれた事に変わりはないのだ。
「あとは、またランク100を目指すのか」
昨日内人さんから説明された事に転生後におけるReviveGameでの最終目標があった。それは、「もう一度ランク100になる事」だ。
「でもなんでもう一度なんだろ…まぁ、すぐになれ…る?」
目の前のゲームの画面を見て私は顔が引きつってしまった。昨日は気持ちが高揚として気づかなかったが次のランクアップまでのポイントが昨日ランク100に上がる際の2倍以上になっているのだ。
「なにこれぇ〜!ランク1になるのにこんなにいるの?!」
つまり、こう解釈するしかないのだ。
「ランク1は1でも、101じゃんこれじゃ」
ランクは転生によって全てのステータスを引き継ぎ1に戻るが、1週目の1と2週目の1では格が違うのだと。
「はぁ、先が思いやられるなぁ」
そんな厳しい現実を思いながら、誰もいない家に一言かけ学校に行く。
いつも通りにバスの停留所で萌々子に会う、少し気まずかったが萌々子の方から謝罪してくれた。
「昨日は私も悪ふざけしすぎたわ、ごめんね」
「ううん、バカとか言ってごめんね」
簡単に仲直りしているが、私だって結構気にしていたのだ。自分の親友に暴言を言ってしまったのだから。
「あっ、そうそう昨日どうだったの?」
「へ?」
「へ?っじゃないわよ!ランク100!」
「あぁ〜、えっとね」
『何にもなかったよ』
これは案内人さんに言われたルールだった、この事を他言してはいけない。自分から他言した場合は即垢BANされるそうです。
「え?そうなの?」
「う、うん!エンドローグ流れて終わりだったよ!」
必死に誤魔化してみたが萌々子は察しがいいので少し怖い、いずれ萌々子もランク100になれば必然的にわかるのだから何の問題もないだろう。
「そうなんだ〜、ちょっとがっかりだね」
「そうだね、あはは」
萌々子に嘘をつくのは仕方のない事なのだが、少し心が痛む。いつか一緒に転生した姿で会える事を想像して、それはそれで楽しみだと思うのだった。
学校でも雫や他の生徒にも同じ事を聞かれたが、萌々子と同じ態度をとる。なんか嘘つきになった気分でやだな。
「はぁ〜、嘘つくのも疲れるなぁ」
帰宅し部屋のベットに寝転ぶ、暫くこの生活になるのかと思うと少し気が遠くなる気がした。
『どうかされたのですか?』
「うわぁぁぁぁ?!」
スマホから突然昨晩の案内人さんの声が流れる。いきなり話しかけられるのは心臓に悪い。
「いっ、いきなり喋りださないで下さいよ!」
『それは失礼しました。それはさておき今日からチュートリアルの開始です。』
「チュートリアル?だってゲームのルールは知ってるよ?」
『はい、転生後はゲーム内より現実に舞台が移ります。それにつきまして、ルールの一部変更がございます。』
それからは案内人さんによる新しいReviveGameのルールを大まかに説明してもらった。変更されたルールは2つ、追加されたルールが3つ。
変更ルール
・相互から対戦を申し込めたが、悪側からは申し込めなくなる。
・3VS3であった人数は善側、最大100名、悪側最大1名。
追加ルール
・舞台が変わるので戦闘の際は人目につかない様に戦うこと。
・変更ルールの人数制限に追加して、同じ悪側のユーザーは連続では対戦不可。
・悪魔側は敗戦した場合、全ての権利を失い削除されます。
「ちょ、ちょっと待って!」
『なんでしょう?』
「悪が不利すぎない?これ 」
『いえ公平にみた判断した結果、このようなルールに至りました。』
案内人さんはこのように言ってはいるが、誰が見ても公平とは思いがたいルールであった。
「負けならゲーム出来なくなっちゃうんでしょ?」
『はい、悪側は削除されます。』
「1対100ってなに?!」
『それだけ悪は強いのです。実際、立花様の能力は最強の部類だと私は思いますが?』
「そうなのかなぁ」
そして案内人さんから1番大事だと言われたのが、悪としての礼儀だった。新人としてまず先輩の会うべきであると。
「先輩かぁ」
『はい、立花様を含め現在20名の悪が活動中でございます。』
「たった20名なんだ。やっぱ人気ないんだなぁ」
肩を落としながら呟ぶやくと案内人さんが察したのかフォローを入れてきた。
『サービスを開始してから最大の人数です。』
「それは!フォローになってないのぉ!」
手を振りながら改めて人気の無さに落ちこんでしまった。
『では行きましょう。』
「へ?何処に」
『転送まで3…2』
「ちょ!まー」
言い終わる頃には既に見知らぬ場所にポツンと座っていた。
「ど…どこぉぉ?!」
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