第4章「ホモコースト」

Social Justiceの虐殺


**HS::NormalizationBasedOnMorality**


In this document, the sections which are done the normalization based on morality(NBM) processing are replaced with the text <Normalized>.


NBM Pattern: 5-16-2078


       Commanded by:

       United Nations Digital Democratization Organization (UNDDO)

       United Nations Special Comittee of Sydney Declation (UNSCSD)



この文書において、倫理に基づく正規化処理(NBM)が行われている部分は<Normalized>という文字列に置き換えられています。


NBMパターン: 5-16-2078


       以下の機関の要請:

       国際連合情報民主化機関 (UNDDO)

       国際連合シドニー宣言特別委員会 (UNSCSD)


——


本作の題として、「黎明期ネット事件簿」という言葉を採用しましたが、皆さんはネット黎明期と聞いてどこまでだと思いますか?


ネット史の一般的な区分法では、第三次世界大戦前夜のTCP/IPからHSへの切り替えを持って「黎明期」の終了とされているようです。

しかし、本作の範囲は第三次世界大戦までの主な事件としています。Unite騒動以前は別の場所に置いてしまったということもあり、若干後の時代までやらないと章数的に不都合という事情もありますが、本作ではむしろ積極的に、第三次世界大戦の終戦をもって黎明期の終わりとしています。


というのも、いわゆる「炎上劇」がもっとも活発だったのが、第三次世界大戦直後なのです。これはHSインターネットというより、自由なTCP/IPインターネット的な特徴です。よって、実質的文化的にHSに移行したのは世界大戦後しばらく経ってからと捉えるべきでしょう。


今回の「事件」はベルリンゲート後の事件ではありますが、連続性を取れないことはお詫びしなくてはなりません。ですが、この「騒動」は世界史的にも日本史的にも、そしてネット史的にも大きなものでした。ネット史の専門家として、この事件をネット史的に再解釈して、皆さんにお伝えしたいと思います。


「黎明期ネット事件簿」第3章は、「ソーシャルジャスティスの虐殺」と呼ばれる事件と、その周辺の世界大戦についてです。


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時は2020年代。

ベルリンゲート等の数々のネット事件の結果、過激主義が世界を支配する可能性に、世界は恐怖していました。むしろ、既に恐怖に支配されていたという状況でした。


海外では、欧州を中心に強権的なネット規制が繰り広げられていました。まず2023年1月、TCP/IPの禁止とHSへの強制移行が決まり、開始されました。

移行は急ピッチで進み、一般人の日常的な使用範囲では、わずか2ヶ月で90%がHSに置換されました。その後完全移行が宣言され、世界中のプロバイダでTCP/IPが接続不可能になります。


このように、世界は言論規制に向かって動き出していた中、日本ではその傾向は非常に弱いままでした。


日本では当時、海外と比べ2ちゃんねる文化圏の自由な空気に晒されているサブカル層が、欧州発の言論規制とあればポルノがその巻き添えを食らうという警戒感から、表現規制に非常に厳しい態度を取ったのです。しかもUnite事件などで、彼らは社会的発言力も構築しつつありました。


しかしながら、2023年4月に国連から提示された33ヶ条要求に対し、日本政府は屈して「インターネット倫理法」を立法しましたが、それでもまともな取締はできませんでした。というのも、日本の警察のサイバー捜査力があまりにも貧弱だったためです。

国際世論の非難の中政府はサイバー警察の準備に取り掛かるも、結局動きは一向に遅く、ネット上でのヘイトスピーチ規制は諸外国よりも緩い体制が続きました。


しかし、欧米では、「フェイクニュース」の定義は曖昧になっていき、「表現」「言論」の定義はどんどんと狭まりました。「表現の自由」という言葉の定義には、大量の但し書きが付き始めます。「但し、~は当たらない。~は当たらない。~は当たらない」と。


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2024年6月21日、EUでは、自由主義のや、差別主義のを含んだ、「地球市民の為の人権」新三原則が採択されます。

これはあまりにも行き過ぎている人権主義であるとして、中国およびロシアは猛反発します。しかしとても表立って反対なんてできませんから、成立させないための工作活動を開始しますが、これがスクープされてしまいます(エネミー・オブ・アース・シチズン事件)。

人権活動家たちは、中ロの糾弾運動を開始。「中ロとは戦争も厭わない、なぜなら彼らは人権を軽視したから」そんな風潮が出来上がっていきました。


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しらかわ(@shirakawaryoji) 2024/10/12 21:09:31

 中ロの今回の問題は反EUというだけでなく、反人権、反人類的側面を持つ

 国連総会では厳しい対処を!

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龍の(´・ω・`)(@shobooo_ooon) 2025/01/21 09:01:01

 中ロと戦争になったとしても、それは人権を守るための正義の戦争。

 自衛隊も米軍もレイシストと頑張って戦ってこい。

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あらゆる思想は、それを極論化・原理主義化させれば即ち恐怖政治に変貌するのです。

ナチス・ドイツはたまたま民族主義と全体主義を採用し、それを極論化したことで恐怖政治化しただけでした。


——当時の彼らは誤解していたのです。恐怖政治を引き起こすものは「極論化」であり、ナチスの失敗は民族主義や全体主義ではありませんでした。

すなわち、人権や自由主義が恐怖政治を生み出す可能性について、考慮に入れていなかったのです。


そして、2025年の4月3日。

中ロの国連およびその他の国際機関からの脱退を国連総会が勧告。

これを持ってロシアはアメリカに宣戦布告。第三次世界大戦が始まりました。

それと共に、インターネットと世論は、正義の炎に包まれたのです。


——


欧米のメディアでは、当然国内の右翼や白人至上主義者を批判する論調が激化するが、それがある時期を境に、全く別の方面へゆくことになります。

そう、彼ら右翼も人の子であり、相次ぐ批判を自分のもとに保つことはできなかった。無意識に、卑怯だとわかっていても無意識に、国外へ目を向けさせようとしたのです。

そしてその試みは反差別であるとして、無批判に受け入れられていきます。


そう、彼らの矛先そらしは、淫夢とBLへと向かったのです。


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HUFFPOST US

2025/08/12

「日本での隠れたLGBT差別」


隠れたLGBT差別大国――それは日本だ。

(中略)注目すべきは、彼らの持つ特有の、LGBT"に対する"独自の文化である。彼ら異性愛者のマジョリティはLGBTの文化を剽窃し、搾取するという特有の文化を持っている。

例えば、男性ナード層で言えば「Inmu」、女性サブカル層で言えば「Boys Love」だ。

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今ではこれは広く知られていましたが、当時は非常に衝撃的でした。


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パイコール(@piecoal) 2025/08/13 19:27:19

 は?淫夢民批判するぐらいなら同性結婚渋った自民党批判しろよ

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ちーぶ(@cheeeeeeeebee) 2025/08/13 01:42:48

 そもそもBLと実際の同性愛は違うってことはみなわかってる

 「何もわかってねえなこいつ」という評価しか今のところできない

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しかし、時勢は戦中、思想が違えば社会的に糾弾されるかもしれません。彼らはその反論をネットに留め、リアルでは吐き出さず、あくまで一般的な良識ある常識人を演ずることに必死になったのです。


それでも、欧米からの圧力が掛かっていきます。

欧米の極右から極左、そして中道人道主義者がまでが一丸となって、日本と韓国の遅れた人権擁護体制を猛批判し出したのです。

これには、単純に批判の逸しを狙った極右勢力の影響の他に、純粋な黄色人種差別の見方があったと言われていますが、定かではありません。

(なお、欧米の学会ではリー報告書の内容から「黄色人種差別はなかった」という説が優勢ですが、これについてはある程度色眼鏡を掛けて見る必要があるでしょう)


そして、それは、ある悲劇を生んだのです。


——


日本は前線基地となり、「同盟占領」という言葉で表される通り大量の市民国兵が駐屯するようになります。

そんななか、9月25日、時の首相安倍晋三(1954-2035)が国会である失言を漏らしてしまいます。


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確かに、日本で充分なヘイトスピーチ対策ができていないこと、またその対策を海外から強く、えー、求められていること、これは事実であります。

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しかし、我が国の、えー、言論監視体制というのは、いわば言論の自由という前提のもと、構築されたものでございまして、

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我が国としても努力はする次第ではございます、が、如何せん我が国のサイバー警察では、能力不足、能力の不足が、やはり、見えてきたと。

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ですから、諸外国の技術支援などを頂きながら、この問題に向き合ってゆく、所存でございます。

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その発言が、命取りでした。

反響が大きかったのは、彼が「技術支援を頂く」と表明した部分でした。


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#Freedom4Japan(@freedom4japan) 2025/09/25 16:38:10

 ならば外国の支援ならば受け入れるというのかな?

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alex joplin(@alex_jop) 2025/09/25 13:01:06

 ならば日本に駐留しているうちの軍使っていいぞ

 Tomodachiの再来だ

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徐々に、駐留している米軍やその他の市民国軍の活用を求める意見が増えていきます。


そして10月1日、ついに日本政府は米軍による私的な通報活動と刑罰活動を容認。基地内刑務所や収容所、及び刑場の使用を認めてしまいました。

ただし、軍法会議などの米側の司法機関ではなく、日本の検察へ明け渡すこととし、日本法で、日本の司法機関が判決を下し、米軍はそれに従って刑罰活動を行うという条件を定めました。


すると、米軍はネトウヨ活動を行っていた人々を特定し、次々と自宅を訪問して検挙していきます。そして、その状況を、母国語でSNSにアップしはじめました。

案の定、「もっと逮捕しろ」という声が挙がるようになり、その声は加速度的に膨らんでいくことになります。

遂に日本法で裁けない韓国政府批判や戦争批判、淫夢なども槍玉にあがり始めます。当然そんなに検挙されたら、日本の遅延した司法機関はパンクし始めるのが常識です。


しかし、そんな「窮地」に手を差し伸べる者がいました。Facebook社CEOの、アントニオ・マーセンです。


——


当時、(まあ今でも)よく言う言葉に、「日本の司法は中世並み」というものがあります。日本は犯罪率の低いために司法政策はどうしても後回しになりがちで、取り調べ中に弁護人の立会がないなど、当時の刑事司法政策は遅れているところが多々ありました。


しかし、彼らが古代ギリシャ並みの司法制度を持ち込んでくるとは誰も思っていませんでした。


マーセンは、Facebook社内のハッカソンで作られたサービスを実用化し、公開したのです。それが、「Social Justice」。「社会正義Social Justice」とも訳せるし、「ソーシャルメディアの裁判官Social Justice」とも訳せます。


ソーシャルジャスティスの概要はこうです。まず、運営から認められたバッジ付きユーザーは、「被告人」の顔写真、罪状を送信し、「起訴」することができます。

ユーザーたちは、議論しつつ被告人に対し刑を投票していき、最終的に最も得票された刑が、「判決」として発表されるのです。


「敵性勢力」からの攻撃に対処するため、すべての議事はブロックチェーン化され、P2Pネットワーク上に公開されバックアップされています。

すなわちこれは、サーバーに対するあらゆる攻撃が効かないということに他なりません。非常に堅牢な体制でした。


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ええ、何年か前までいた、人権擁護のための運動を冷笑し、SJW(Social Justice Warrior)と呼んでせせら笑っていた人々のことは知っています。

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敢えてこのような命名をしたのは「彼らに負けない」という宣言の意味合いがあるのです

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SJWという無差別的なレッテルが、どれだけの空虚な議論を積み上げさせたのでしょうか私はもう、差別主義者が使う「SJW」のようなレッテルに付き合っている暇はないと思います

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日本政府は、ソーシャルジャスティスは日本の司法権を侵害するものだと示唆し、認めないこととしようとしましたが、海外からの猛烈な反発により潰えました。

日本という国は最早「炎上状態」でした。物資は売り渋られ、同盟国であるにも関わらず食料品の輸入には制裁が加えられていました。生き延びるためには、海外の「社会正義」の慈悲を祈るしかありませんでした。


そして、その祈りは裏切られたのです。


——


ソーシャルジャスティスの運用が始まった2026年1月1日。

市民国軍の活動によって98人の日本人が拘束され、起訴されました。

その中には15名の淫夢関係者と30名のBL作家・愛好家を含みます。

その後も毎日のように「レイシスト」が起訴され、数時間から数日で裁かれました。


最初は無罪判決も50%ほど出ており、ある意味冷静ではありましたが……


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asciist(@asciist) 2026/01/08 11:49:48

 無罪が多すぎでは?

 #SocialJusticeDotNet #SocialJustice #OperationBushido

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#OperationBushido(@mix_pixza) 2026/01/03 21:58:42

 この判決は日本のレイシストによる工作によるものだ

 裁判官の実名公開を行うべき

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それでも足りないという声が上がっていきます。


そして、1月15日、ある試みが行われることになりました。


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規約を改正し、全ての判決について、投票結果を実名と共に公表します。

これは、実名を伴った責任ある投票を行動していただくためです。

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1月15日の規約改正――後に「ウィンゼー会議的転回」と揶揄されるこの規約改正が、何をもたらしたか。

それはご存知だと思います。


実名は責任が伴う。責任を取るには、常識に沿った行動が求められる。

しかし、その常識が狂っていたとしたら?


犠牲者約420万人。

「ホモコースト」と呼ばれる、大虐殺が発生したのです。


そのほとんどは淫夢民やBL愛好家などの、罪のない人々でした。

なぜなら、ネトウヨなどの差別主義者のグループは戦争が起きる前から時勢を察知しており、早々と地下に潜る準備を進めていたからです。


そのため、本来は裁かれるべき人々が裁かれず、裁かれるべきでない人々が裁かれるという異常事態が起きました。


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JudyMuller(@judy_mul) 2021/02/15 09:29:22

 本当のレイシストが雲隠れして軽いレイシストが罰を受けている

 どうかしてる

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Donoit(@Donoit09) 2021/02/15 09:31:59

 Replying to @judy_mul

 レイシズムに軽重はない

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しかし、これは黙殺されました。

一連の動きへの批判はそれ自体がヘイトスピーチ擁護と見なされたのです。


この時代を取り上げたドキュメンタリー映画に、「Shame On You――父を殺した人に会いに行く。」というものがあります。かなりショッキングな映画ですが、当時の情勢がよくわかります。


あるイギリス国籍の黒人女性ジュディス・ルーパー(1995-)が登場し、スマートフォンでソーシャルジャスティスに投票するシーンがあります。

人を一人殺している中、彼女の娘レベッカが来て、尋ねるのです。

「ママ、何しているの……?」

「今、ママはちょっとお仕事やっているの。『グリーンガールズ』と同じ、みたいなことよ」

「そうなんだ!私も、お母さんみたいに正義の味方になりたいなあ」

「そうなの?レベッカなら出来るわ」


その直後、シーンが切り替わり、キャンプ座間ジェフ・ベゾス記念反レイシスト刑務所の死刑執行施設へ。

ある男が、それも先ほどジュディス・ルーパーが死刑判決を下した男が、項垂れており、その先には米軍兵士がいます。

その横の見学室には、その男の女子高生の娘が、必死に涙をこらえながら……。

大きな「ドーン」という音と、冷たいナレーションが入ります。

「父親を亡くしてもなお、彼女は泣くことも許されなかった。悲しむことも許されなかった。」

「『レイシスト』の死を悼む行為は、そのものが、死者の罪に準ずる悪徳であると信じられたのだ」


彼女は、ずっと自分に言い聞かせたそうです。この人は大悪人なのだと。多くの人々を傷つけ、LGBT差別に加担した、張本人なのだと。

納得できたどうかは、覚えていない、彼女は後にそう語っています。


そして、ルーパーは、異国の青年を、赤く染まった掌の上のスマートフォンで惨殺しながら、レベッカを保育園に連れて行ったのです。


——


隣人たちが常に殺されていく日常。ただ、量刑だけが厳しいというだけでなく、これは別の側面をも意味しました。

BB劇場やMADだって、BL漫画やアニメだって、人が精神と時間を削って出来上がったもの。淫夢やBLという汚いながらも人々が結集し作り上げられてきた文化が否定され、裁判に掛けられていくのは、我慢の限界を超えていました。


しかし、そんなことは言えるわけがありません。正義という、その大きな世界レベルの力により、押しつぶされて。


ただ、日本人にはそんな状況下でも何とか状況を挽回できる能力がありました。

逃げ場のない島国に生まれた民族の、悲しき力。人の気持ちを推し計り、忖度する力……。

言い直せば、日本人の「示唆」の範囲が、一般的な欧米人の価値観のそれより少しだけ広いという、それだけの特徴が、このビザンティン将軍問題を解く唯一無二の鍵だったのです。


そして、彼らはそれをやってのけたのでした。

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