3-4 魂を失った機神兵

 意識が復旧すると同時に、自分自身が何をしなければならないのかを直感する。


【機体の欠損を確認。自己修復プログラムを起動し、腹部の修復を開始します】


 穴が開いた腹部にホログラムのような半透明のエネルギー体が展開され、瞬く間に形作られる。自身の腹部が埋まっていく不思議な感覚と共に、零式は立ち上がった。


 身体に掛けられていた黒いマフラーを首に巻くと同時に、金属質なマフラーに自分の顔が映り込む。そこに映っていたのは、セナのそれと同じ純白に染まった髪の毛である。彼女のOSの起動に伴い、純白のエクトプラズムが浸透してしまっているのだ。


 故に、零式は自身が機神兵に変貌したことを認めた。


「……セナ、戦闘補助を頼む」


【敵機を確認。戦闘モードに移行します】


 歯車は空気を裂くほどの猛烈な勢いで回転し、彼女の声で適時状況を伝える。

 と、同時に零式の視界に様々な情報が投影される。まるで戦闘機の操縦席に乗っているかのような気分に陥った。カーソルは壱外を照準して離さず、セナによる戦闘演算の結果数値で埋め尽くされている。


「てめぇ……死体を機神兵にしやがったなッ!」


 怒りという感情が込められた声が壱外から発せられた。それは零式に向けられたものではなく、零式という機神兵を生み出したセナに対するものだ。


【基本戦術《工廠/アーセナル》の発動シーケンスが完了。新規物質の構築及びに既存物質の再構築が可能です】


 零式の死を冒涜したことに対して憤怒している壱外から視線を外し、敵対機神兵の本体であるルインを見詰める。戦術方針は先程と変わらない。無防備にも剥き出しになっているヒューマ=レプリカント態を狙えば良いのだ。


「ルインッ!」


 零式の考えを読んだ壱外が、すぐさまルインの元に戻ろうと踵を返す。


「セナ、発動しろッ!」


【了解。基本戦術《工廠/アーセナル》を発動します】


 同時に、ルインに銃身の先を向けるように大量の固定砲台が生み出される。

 白銀の迷夢のようなエクトプラズムが実体化する。最小の部品から一瞬で組み立てられ、周辺いっぱいに金属質な音が連続的に響き渡った。


 死角などはなく、何処に逃げようと完璧にルインを殺すことができる。


「――撃て」


【一斉射撃を開始します】


 その一声で大量設置された固定砲台が一斉に、ルインに向けて銃弾を吐き出した。

 マズルフラッシュによる閃光が夜闇を白く染め上げる。銃弾が雨霰のように大量の固定砲台から放たれるため、銃撃音はもはや羽虫の羽の音が爆発音に変わったかのようだ。


 銃弾を十分に吐き出した固定砲台は自動的に動作を停止し、姿形を保つことができずに元のエクトプラズムへと霧散して消えた。


「……これは流石にあぶねぇところだったな」


【基本戦術《破壊/アンチマテリアル》の発動を停止する】


 銃弾が身体に当たる寸前でルインと接続した壱外はOSによって守られていた。『触れた物質を破壊する』神威に晒された銃弾は、粉々に砕け散って白い塵山を築いている。


【ふむ、別にるいを庇う必要はなかったのや。るいは自分だけでOSが展開できるからの】


 機神の肉体であるヒューマ=レプリカント態は機神兵と異なり、接続状態でなくてもOSを展開することができる。と言っても、本体である機神歯車から離れている状態であるため、多用はできないのだが。それでも、あの程度の攻撃ならば凌ぐことはできた。


【もしかして、るいのことを心配してくれたのかや? かわゆい奴よな、お主】


「……うるせえな。無駄口を叩く前に、あいつらを索敵しろ」


 壱外は零式が居た位置に視線を向けるが、既に零式の姿はどこにもなかった。霧状に拡散されたエネルギーの残滓のみが、漂うばかりである。


「やれやれ……残業確定ってところだな」


【案ずるでない。遅かれ早かれ、奴らとは相見えることになるだろうよ】

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