3-3 白い職人
「ぜ、零式くん――」
《柩送り》による肉体強化が為された人体の許容を遙かに超えた暴力を撃ち込まれ、吹き飛ばされた零式に、セナは一心不乱に駆け寄った。
泥と血塗れになった零式を抱え込み、既に光が失われた彼の瞳を覗き込む。
「そ、そんな……なんで、どうして……」
零式から反応は返ってこない。掌底を撃ち込まれた腹部には穿たれたかのように大穴が空いており、攪拌されて原型を留めていない内臓が飛び出している。
「どうして、あなたが死ぬ必要があったんですか……!」
最初から自分が解体されていれば、零式が死ぬことはなかった。自分が生きたいと、少しでも望んでしまったから、彼の命を奪う結末になってしまったのだ。
「嫌だ……嫌です……置いて行かないでください……」
ぐったりとして動かない零式の頭を抱え込み、セナは涙をぽろぽろと零した。暖かい涙は冷たくなりつつある零式の頬を伝って落ちていく。
「……何者であれ、死に立ち会うのは慣れぬモノよな」
ルインは零式の死体を抱いて泣いている敵個体を眺めながら、そう呟く。物体を壊すことに関しては快楽を得ることのできる彼女であるが、何者かが死ぬということに関しては何とも言えない気分になる。
「ああ、だから俺は常に喪服を着て敬意を示してんだ。俺が働くってことは人間であれ、レプリカントであれ、何かが死ぬってことだからな。今回もそれは変わらねえ」
壱外は取り出した煙草ケースから煙草を一本だけ取り出すと、ライターで火を付けた。
最期の別れくらいはさせてやっても、十掬が怒ることはないだろう。そう思っての壱外なりの配慮でもある。
「……わた、しは」
零式の亡骸を抱いたまま、セナはぽつりと何かを呟き始める。
その小さな身体に隠されていた莫大なエネルギーが動き始め、徐々にそれは彼女の身体から湧き出すように現れる。
それは機神が世界を改変する際に、自身の神威を世界に媒介させるためのエネルギーだ。電気エネルギーや運動エネルギーなどの一般的なエネルギーに類しないそれは、研究者の間ではエクトプラズムなどと呼ばれている。
「――ッ! 壱外ッ!」
異変を感じ取ったルインが命令する前に、壱外は煙草を捨てて駆けだしていた。
「私は――『
セナの身体から湧き出したエクトプラズムは、空中の一点に凝縮していく。この一帯を更地に帰することも可能のほどの熱量は、周辺を神々しい白銀の光で包み込む。
「与えられたOSは『あらゆるモノを創造する』――言わば、創造神の神威。例え、生の輝きが失われた入れ物であろうと、そこに新しい命を創造してみせましょう」
凝縮されたエクトプラズムは、やがて誰しもが認識可能な形状を形作った。
それは、白銀の歯車の形状をしていた。
「私は、この世の理に逆らうことになろうが、あなたが死ぬことだけは認めないッ!」
顕現した機神歯車は蠱惑的な禁忌の力。使用者の意向一つで世界を左右する神の力である。
空中で不規則に回転する機神歯車を手に取り、セナはそれを零式の右手首に填める。
「――くぁッ!?」
次の瞬間、セナが白銀の情報体と化した。
データの奔流を視覚化したかのような光芒が天を貫き、歯車に流れ込んでいく。その瞬間、白銀の歯車が息を吹き返したかのように回転を始めた。
壱外でさえも近付くことのできないエネルギーの暴力。彼が思わず立ち止まってしまった間に、その儀式は終わりを告げる。
【製造番号:零/OS:
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