第7話:謎の少女
「それじゃあ、部屋まで案内するからついて来て」
「え!? ユキナさんが案内するんですか」
てっきり、メイドか執事、どちらかが案内してくれると思ってたが、そうではないらしい。
「そうよ? だって私、ここでメイドしてたから」
ユキナさんは偉そうに手を腰にあて、踏ん反り返かえった。
メイドって、この人が? 全然想像出来ない。メイドってもっとお淑やかな人達だと思ってたんだが。
「ナスタ君、何か失礼な事思ってるでしょ。顔に出てる」
「え!?」
慌てて手で顔を触る。そんな顔してたのか、ちょっと不味いな。
「嘘よ、嘘。まぁ、その反応で嘘じゃないって分かったけどね」
「……すみません」
師匠、絶対に尻に敷かれてるんだろうな……。
「ほら! 気にしてないから、早く部屋に行くよ」
気にしてないって言っても、絶対気にしてるだろ。
気のせいかもしれないが、さっきと雰囲気違うような……気のせいであって欲しい。
「はい、分かりました」
すぐさま返事をして、ユキナさんの後をついていった。
*****
…………気まずい!!
さっきは気にしてないって言ってたけど、あれは他に人がいたからで、二人きりになった途端に違うこと言われるんじゃないか。
何とかしてこの空気を変える為にどうにかして話を切り出さないと。何がある? 駄目だ、いざ、聞こうとすると全然考えつかない。
何かあるか……何か…………そうだ!
「いいんですか? ユリちゃん、師匠に任せて」
ユリちゃんはまだ幼かったし、一緒に居ないと親として心配になるはず。これで、会話を続かせれば、気まずさは紛れるんじゃないか。
「大丈夫よ、あの子は目を離すと勝手にどっか行っちゃうだけだから」
返事あっさりし過ぎだろ。しかもそれ、行っちゃうだけで済む問題なのか? 目を離せば絶対に居なくなるって事だぞ。
まぁ、あそこには師匠の他にアリムさんとサルビアさんもいるし大丈夫か。
でも、これでまた話題が無くなった、どうするか……ん? 何か声が聞こえるような。
「ユキナさん、何か聞こえません?」
「え? そうね――この声は!」
「わぁーーーーい!!」
声を上げながら、2人の間を何かが走り抜けて行った。
「ちょっとユリ! 勝手にどこ行くの!」
は!? 今のがユリちゃん!? いくら何でも速すぎだろ。
ユキナさんはユリちゃんを追いかけて行ってしまった。というか、ああして走り出してるってことは、みんな、目を離したんだな。
……どうするか、今から戻るのも面倒だし……とりあえず、適当に歩いて二人を探すか。
二人が走って行った方向に向かったが、二人は見つから無いし、いくら歩いても誰にもすれ違わなかった。それに、どこも全く人気がしない。
「何だこの城、使用人はいると思ってたけど、それ以前にあの人たち以外に1人も居ないぞ…………おっ、あれは」
そこにはテラスの入り口があった。
丁度いいし、気分転換に外の空気でも吸っておこう。
テラスに出ると、心地の良い風が吹いてくる。手すりまで近づくと城内が一望することが出来た。
「凄いな。やっぱり統治者が違うとこんなにも変化があるのか」
城門からひっきりなしに人が入れ違っている。さすがにここまでの規模は初めて見るな。
思えばここに来るまで色んなことがあったな……思い出すと疲れがどっとくる。
近くにあった椅子に深く座り、目をつぶる。風のおかげか少しまぶたが重い。
*****
「――ぇ」
誰かに肩を揺すられる。どうやら眠ってしまっていたらしい。
「――ねぇ君、外から来た人でしょ。少しの間、話相手になってくれる?」
声のした方を向くと、白髪の少女が日傘を射しながら立っていた。
「君は?」
目を擦りながら少女に名前を尋ねる。しかし、返ってきたのは名前ではなく催促だった。
「私の事なんて、どうでもいいから。それより、話相手になってくれるの! くれないの!」
何なんだ彼女、いきなり話相手になれって言われても――――いや、待てよ? 今さら戻るより、ここにいた方がユキナさんにも分かりやすいか。
「分かった、話相手になるよ。でも、何の話をするんだ」
「じゃあ、あなた名前は?」
「俺の事はナスタって呼んでくれ。君の事、何て呼べばいい?」
「私? そうね……ハクでいいや」
いいやって、適当な、絶対に嘘じゃないか。絶対、白髪だからだろ。
「ところでさ、ナスタは何でここにいるの? 普通は入れないのに」
ナスタって、いきなり呼び捨てかよ、良いけどさ。
「俺がここに来たのは魔王を倒す為だったんだ。だけど、今はそれが意味の無い事って知って、成り行きで、今日はここに泊まることになった」
本当に何でこんなことになっているんだよ。自分で言っておいて訳が分からない。
「ふぅん……じゃあ、ナスタはここに来るまでの間、何してたの?」
「旅をしてたかな」
「旅!? 詳しく教えて!」
彼女、旅って聞いて凄い食いつきて来たな。まぁ少し位なら話をしてても大丈夫か、サルビアさんが来ないようなら、途中で客間の場所を彼女に聞けばいいし。
「分かった、それじゃあ俺が最初に行った町の話を――――」
それから俺は、彼女にこれまでに体験した旅の話をした。
*****
「――みたいな事があったな」
今思い出してみると、色々なことがあったな。辛いこともあったけど、どれも大切な思い出だ。
「……羨ましいな」
「え? 今、何て――」
「じゃあ、私そろそろ行くね。機会があれば話の続きを聞かせてね?それじゃ」
俺の言葉を遮り、ハクは屋内に戻って行った。
『羨ましい』確かに彼女は言った。その言葉の真意は分からない。というか、結局、彼女何者なんだ? メイドではないだろう、そもそも、メイドの格好をしてなかったし……。
考えてもしょうがないか、それよりも早くユキナさん見つけないと。
城内に戻るため、テラスの扉を開けると、タイミング良くユキナさんとユリちゃんが手をつないで歩いていた。
「ユキナさん! ここです! ここ!」
「やっと見つけた。勝手にどっか行かないでよ、探すの大変なんだから」
「先にどっか行ったのはそっちだろ。」凄く言いたいけど余計な事は言わないでおこう。これ以上機嫌が悪くなるのは勘弁だ。
でも、こっちも一応言い訳はしておこう。
「ついさっきまでテラスでハクって子と話してたんです」
「ハク? そんな子ここには居ないわ。噓をつくならもっとマシな嘘をついた方がいいわよ」
「え?」
ハクは居ない?
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