第6話:平和のかたち
今のがサルビアさんの記憶なのか……。
魔法で他の人の記憶を見ることが出来るとは凄いな。
「こうして私はあの日、アリムさんに攫われたの。懐かしいねぇアリムさん?」
「止めてくれよ、恥ずかしいんだから」
「あの時のアリムさん、私には勇者に見えた。たとえ魔王だったとしてもね」
「だから止めてくれって」
なんか痴話喧嘩始めたぞ、この人達。
というか、サルビアさん好きになる保証は無いとか言ってたのに、今は心底惚れてるじゃないか。何があればこうなるのやら。
「ごめんね、ナスタ君。今のに質問あるかな?」
今ので絶対に嘘だと思いたいことがあったが……。
「もしかして、師匠が魔王を倒しに行った理由って、サルビアさん、あなたがさらわれたからじゃないですよね?」
サルビアさんは徐々に俺から目を反らし答えた。
「……正解」
「………………」
一番当たって欲しくない質問が当たってしまった。
この人、なに考えてんだよ! 一国の姫がさらわれることで起こる事態を予測出来なかったのか!
怒りに任せ、彼女を責めようとしたが、俺より先に口を開いたのはアリムさんだった。
「ナスタ君、サルビアをあまり責めないでくれないか」
「どうしてです!」
「彼女も考えが甘かったところはあると思う。でも、それは私が彼女をさらったのが原因だ。責めるなら私を責めてくれ」
アリムさんの言っている事は間違ってない、間違って無いなら・・・俺はアリムさんを責めることは出来ない。
「なら、なら、なら」
俺は今までに感じた思いを誰にぶつければいい? 師匠の敵をとるため魔王を倒す、それだけの為に努力して生きてきた俺はなんなんだよ。
手に汗がにじみ、呼吸が荒くなってくる。
その時、突然に頭に手が置かれ、俺の視界は下を向いた。
「そう、焦るな。一旦落ち着けよナスタ」
「えっ?」
この懐かしい声は、もしかして……。
「おう、泣くなよ。会ってすぐ泣かれちゃ困っちまうだろ」
師匠だった。
久しぶりのその顔は何も変わらず笑顔で、俺の頭を乱暴に撫でてくる。ごつごつした手、野太い声、何から何まで懐かしかった。
「だから言っただろう? 誰も殺してなんかいないって」
「そうだぞ、現に俺は今も生きてるんだからな! ハッハッハッ」
アリムさんと師匠は仲良さげに笑い出した。
確かに師匠は死んでいなかった。でも、それなら、それなら!
「じゃあ何で、帰って来なかったんだよ! 俺が、俺がどれだけ心配したか分かってるのか!」
突然、家を出ていってから連絡一つ無く、魔王のもとに向かったと聞いて、帰って来ない師匠を俺はずっと魔王に殺されたんだと思っていた。親を知らない俺にとっては唯一の家族だったんだ……。
しかし、俺の気持ちを知らない師匠の返答は衝撃的なものだった。
「それは……恥ずかしかったんだ」
「は?」
恥ずかしかった? え? 師匠だけど、何言ってんだこいつ。何で恥ずかしがる必要があるんだよ。
「あの時、お前に愛してるとか言って出ていった、それは帰って来ること無いだろうとその時は思っていたからだ。でも、いざ魔王城に乗り込んで見たらどうだ? お前も見ただろう、平和そのものだ」
「それは……まぁ、驚いた」
あれを見て驚かない人はいないと思う、知らない人から見たら魔王城には到底思えない。
「それに、姫は魔王に攫われてからの方が生き生きしている。しかも、既に彼らは結婚していた。それなら、魔王を倒す意味は無いだろ?」
「確かに、俺もそう思う。でも、それなら連絡の一つも出来たんじゃない?」
「俺はここに来て大切な存在が出来た。他の奴らもここに来て、新しい生き方を見つけた。お前にこの事を伝えようとしたが、あんな事言った手前、直接会いに行くのは恥ずかしかったから、手紙を送ったんだ。だけど、一回も返事がこないから、心配して会いに行った、でも、お前は家にはいなかった。一体、何をしてたんだよ」
「多分、俺はその時、旅をしていたから家にはいなかったんだよ」
なんだよ、師匠は俺に連絡をとってたのか……。
多少のすれ違いで俺はこの数年間、大きな勘違いをして過ごし。みんなが幸せに暮らしている中で一人、意味の無い生活を送っていたのか……滑稽だな。
扉を開ける音が聞こえる。
どうせ、ユキナさんが入ってくるだろう。そう考えていたが、入って来たのは小さい女の子だった。
「パパー抱っこ!抱っこ!」
そんな事を言いながら走ってくる。多分、アリムさんの子供だろう。
だが、予想を裏切り、少女は師匠の足下で止まった。
「パパ!?」
思わず声を荒げてしまい、少女を涙目にさせてしまった。
すかさず師匠が少女を抱き抱え、あやすと直ぐに落ち着き、笑顔になった。
「ちょっとユリ! 勝手に一人で行っちゃ駄目よ」
女の子の後に入ってきたのはユキナさんだった。
「おいおい、そんなに驚くことじゃないだろ? まさかユキナに聞いて無いのか?」
俺は無言で頷き返答をする。
「この子はユリって言うんだ。俺とユキナの娘なんだ」
娘がいたのか……あんなに幸せそうな顔していちゃ、文句の一つも言えないじゃないか。
……別にいいか、幸せなら。
「いろいろあって疲れたろ? ナスタ君、とりあえず今日はここで泊まるといい。客間は君のような者の為に用意してるようなものだからな」
「……分かりました。なら、お言葉に甘えさせてもらいます」
こうして俺は魔王城で一夜を過ごすことになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます