第9話

特に理由はなかった。



嫌いになった訳ではない。

彼女に飽きたといえばそうなのかもしれないが、でも少し違う。



ただ、もう必要がなかった。

執着に飽きた、というのが適切な気がする。


結衣への執着に飽きたのだ。




気付けばLINEの返信をしていなかった。


未読のまま削除する。



こんな終わり方は初めてだ、と思った。




「今までいた場所に急にいやけがさして、ふとやめちゃうことあるんだよね。」

いつか、結衣がそう言っていた。

「ふうん。」

「人間関係を急に絶ってしまう。これっておかしいことかな。」

「キャパオーバーになってるんじゃない?結衣の中で。」

「人付き合いに疲れてるってこと?」

そう首を傾げていた。

「うーん、まあそれも1つの要因かもしれないけど。何か新しいことを始めたいって心のどこかで思って、それに心がむかうからその場所がどうでもよくなる、のかもね。」



なんでこんな最もらしい返事をしたのだろう俺は。

こんなふうに思ったことは微塵もない。



その場しのぎが上手いのだ。

言葉で相手を操作するのが得意、なのだと思う。




そして、やっぱりそんな自分が好きなのだ。





今晩はサークルに入った新入生の子とご飯に行く約束を取り付けていた。




真面目で良い子そうだから、遊べないだろうな。


でも良かった。誰かと一緒に居たかった。




恋人は相変わらず素っ気ない態度だった。

次のデートの約束はいつまでもたてられないままだった。

でももうそれでいい。




また物足りなくなったら遊んでくれる『誰か』を見つければいい。





日差しは容赦なく後ろから首を照りつける。



頬を流れる汗。



気付けば、夏はもう始まっていた。

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