第4話

緑道に人はいなかった。

夜8時。夕飯でも食べようかと話してから30分ほど経っていた。


「あー、疲れた。」


道中にあった石のベンチに1人座った。

結衣は座らずに、俺の前に立った。



祖母の葬式の帰りだった。

たまたま、結衣の実家が、その祖母の家の近くにあった。

そんな偶然だった。



時間空いてるしせっかくだったら遊ぼうよ



こんな誘い文句で、彼女は簡単に会いに来た。


「正直つれると思ってなかった。」

「暇だったの。」


彼女は首を傾けた。


「大変、だったね。」

「まあね。俺、おばあちゃんのこと好きだったし。」

「そっか。」



緑道のすぐそばには国道が通っていて、たえず車が走っていた。


「なんで良い人って早く死ぬんだろうね。」

「本当それ。」

僕は伸びをしながら言葉を続けた。


「憎まれっ子世に憚る、っていうもんな。」


「だからわたし、嫌いな人間を褒めるときには『良い人だね』って言うようにしてるんだ。」


「世界一遠回しな『死ね』の言い方だな。」

冷ややかに笑ってみせる。



結衣は病んでいる。心のどこかが。

この時にはもう気づいていた。




そっと腕を掴んでみる。

彼女はなにもリアクションせずに会話を続けた。



「クラスにでもサークルにでも、リーダー格の人っているじゃん。」

唐突だった。

「うん。」

「私、最初はそういう人たちと仲良くするのね。でも次第に離れちゃう。」

「え。」

思わず声が出た。

「なんていうんだろう。別に仲が悪くなったとかじゃなくって。」

「分かる、すごい分かる。」



それだけ言うと彼女は寂しげに笑った。


「なんか似てるね、わたしたち。」

「似た者同士だ。」



結衣を引き寄せる。そのままキスした。



交際相手とは一ヶ月近くキスしていなかった。

久々。興奮した。



口を離すと結衣は上目遣いをした。



「彼女、いるんじゃなかったっけ。」



その言葉に効力なんてなかった。





この日がなれけば、結衣とはこうはならなかったんだろうなと今思う。

この時キスしなければ。




あまりに身勝手な自分を思う。

そんな自分が好きなのだ、結局は。




「俺、執着心がすごいんだ

執着して執着して。で、ある日急にどうでもよくなる。今の彼女がいつそうなるかもわからない。

ならないかもしれない。


でも、今は、できるだけ一緒にいたいと思ってるんだ。」



キスのあと、隣に並んで座って、そんな話をした。



「私もいま、元彼に執着してるんだ。

別れたの、一ヶ月前なの。」



「え、最近じゃん。」



結衣のことは正直何も知らない。

それが良かった。

あまりにもちょうど良い存在だった。

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