第5話
「好き。」
何度目かのキスのあと彼はそう呟いた。
「くず。」
「セフレとして、好き。」
「まだキスしかしてないよ。」
そういって彼の目を見た。
「俺さ、少し前までセフレ居たんだ。」
「そうなの。」
出会い系をやっていたという話をさっき聞いた後だったので、たいした驚きはなかった。
「でも、こないだバイバイしちゃったんだ。もっと良い人がいるからそっち行くねって言われて。寂しかったんだけど。」
そういってから私と目を合わせた。
「結衣がいるならもう寂しくないかな。」
ここまでクズな人に会うのは初めてだ、と思った。
そして、あろうことか、私は惹かれてしまった。
夜とはいえ緑道なので時たま人が通り過ぎていく。少し互いに体を離した。
嫌いじゃない顔。スタイル。声。
寂しさの穴埋めにはちょうどよかった。
思ってしまった。
都合がいい相手だと。
「好きでもない人とちゅーした。」
何日かして、数年の付き合いがある男友達に電話口でそう話した。
そいつからは、定期的に電話がかかってくるのだった。彼女がいてその子を一途に思ういいやつだ。
でもなぜか私のことを気にかけていてくれていた。
「どうだった?」
「すごく気持ちよかった。」
「元彼と比べたら?」
「元彼よりちゅーうまかった。あは。」
こないだもなんかサークルの男とちゅーしてなかったっけ。呆れ顔でそいつが言う。
びっちかよ。
いや、ちゅーだけだし。
どうしようもなく爛れた会話を交わす。
「不思議なことがあってさ」
「うん」
「この間までしにたかったのに。いまはすごく幸せなんだ」
ふと正直な気持ちを吐いた。
幸せ、とは違う気もしたが、それでもなにか満たされた気持ちになっていたのは確かだった。
「それはきっとさ」
少しの間のあと、彼が言う。
私はすでに寝る用意をすませて、ベットでタオルケットに包まっていた。
「うん」
「君のなかでの幸せと不幸せってあんま大差ないんじゃない?」
「え?」
「そんなころころ変われるような君の幸せも不幸せも。ぜんぶ大したことないんだよ。意味、わかる?」
思ってもない言葉に戸惑う。
「・・・一晩ねたら分かるかも。」
「そうか、じゃあもう寝ろ。」
そんなんで電話は切れた。
否定も肯定もされない。
そのことが私を居心地を良くさせていた。
ただ。なにか心にひっかかった。
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