第3話

「私の彼氏に手ださないでね。」

笑い混じりに、でも真面目にそう言われてしまった。

ださないよ、そっと目線を逸らした。



こんな子になるつもりはなかった。そう思うこ

とが、最近ますます増えてきた。



性格の悪い女になりたい、そう思っていたのは確かだった。他の女の子に僻まれてみたかった。そう望み始めてから、何かが狂った。



ただひたすら容姿を気にかけた。

化粧品に金は惜しみなく使った。

服は誰ともかぶらないようにしたかったから古着屋へよ通った。



「なぜそんな服を着ているの。」

あまり関わりのない、とある人に聞かれた。

「あの子たちと同じブランドの服を着るとするじゃないですか。服が一緒なら次に見るのは顔とスタイルでしょ?勝てるわけがない。同じような格好の子が集まったら、選ばれるのは顔が良い子よ。」

「だから服で勝負ってこと?」

「勝負ってわけじゃない、でもあの子たちに馴染む気はさらさらない。馴染めるほど私は幸せな人生を送ってきてない。」



そう言い切った。なに一つ間違えたことを言ったとは思っていない。でももうその会話を交わした相手とは関わることはないだろう。



もっと頭が悪ければ良かった。

服装、化粧、言葉遣い。外見はいわゆる「頭の悪そうな人間」に仕上がった。

でも性格がこんなにややこしい。



人の彼氏をとるだなんて。

そんな芸当は持ち合わせていない。



奪えるほどの魅力なんてない。

ただ、遊ばれるだけ。



「どうも。」

先輩の紹介で種田と初めてあったとき、正直タイプが違うと思った。好き嫌いじゃなくて、人としての相性が合いそうになかった。初めまして、結衣です、挨拶をして、そこからしばらく立ち話をした。やっぱり話は合いそうになくて、一応twitterだけフォローして、それ以降はまともに言葉をかわすことはなかった。



そのままでいれば良かった、と思う。

あの日。夏がそこまできていると分かるような夕焼けに誘われてしまった。

キスをしたときにはもう好きになっていた。



恋愛的な好き、ではなく、性的な好き。



それが、一番厄介であることを以前から私は知っていた。


私をとめるようとしてくれるものはたくさんあった。今までならそれらが引き留めてくれていた。

でも私がもう変わってしまっていた。

あまりに欲求に忠実自分がいた。



なんどもtwitterとLINEをブロックした。

電話でもうやめようと泣いて話した。



でも彼は私を引き留めた。

あまりに容易に引き留められる自分がそこにいた。気付けばブロックを解除してた。余裕なんてなかった。







「結衣ちゃんは、すぐ彼氏できるよ、ね。」

先ほど私に牽制をかけた彼女はそう笑った。


良い子だと思っていた。可愛い子だったし、好きだった。その子の彼氏に手を出そうだなんて毛頭考えもしていなかった。



だからこそ、「私の彼氏に手ださないでね。」の一言は刺さった。


そういう子に見えるのだ、私は。



用事を済ませるとじゃあね、といって別れた。





種田の彼女を私は知らない。

同じ大学内にいるのも、文学部なのも、twitter垢の名前が「ゆう」なのも知っているけれど、でもなにも知らない。



もし彼女と知り合いだったら、種田とこんな関係にはならなかったのだろうか。



わからない。でも、一つだけ分かることがある。





私は、気づかぬうちに見た目通りの女の子になっていたのだ。





こんな子になるつもりは、なかった。



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