椿さへおほかた落ちて春くれぬ

【読み】

 つばきさへおほかたおちてはるくれぬ


【季語】

 椿・春暮るる(春)


【大意】

 椿の花もおおかた落ちつくしてしまって、春もいよいよ黄昏をむかえていることである。


【附記】

 かように平明な句を詠むことには、わたし自身が季節の推移を確認する意味もある。


【例歌】

 巨勢山こせやまのつらつら椿つらつらに見つつ思はな巨勢の春野を 坂門人足さかとのひとたり

 あしひきの八峯やつをの椿つらつらに見とも飽かめや植ゑてける君 大伴家持

 白昼ひるの湯に湯気のなかより窓あくればほの赤つばき覗きけるかも 中村憲吉


【例句】

 鳥に落ちて蛙に当る椿かな 桃隣とうりん

 もとやくらがり照す山椿 同

 うぐひすの笠おとしたる椿かな 芭蕉

 遁水にげみづや椿流るる竹のおく 同

 暁のつるべにあがる椿かな 荷兮かけい

 春尽て椿は今にさかりかな 許六

 椿落て氷われたり池の上 土芳とほう

 陽炎かげろふのもえて田にちる椿かな 曲翠きょくすい

 鳥の音も絶ず家陰やかげの花椿 支考しこう

 山茶花さざんくわやいはば椿のまた従弟 卓袋たくたい

 玉椿落て浮けり水の上 諷竹ふうちく

 花生けに葉は惘然まうぜんと散る椿 也有やゆう

 あぢきなや椿落うづむにはたずみ 蕪村

 古井戸の暗きにおつる椿かな 同

 花も葉もひかる月夜の椿かな 嘯山しょうざん

 月させどよくよくくらき椿かな 乙二おつに

 椿おちて池の夕浪立ちにけり 梅室ばいしつ

 椿咲く親王塚や畑の中 村上鬼城

 落ちざまにあぶを伏せたる椿かな 夏目漱石


 どど川の春や暮れ行くあしの中 丈草じょうそう

 いとはるる身を恨み寝やくれの春 蕪村

 伐り倒す楠匂ひけりくれの春 闌更らんこう

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