鶸の音の転がる空やそぞろ寒

 ひはころがるそらやそぞろさむ


【季語】

 そぞろ寒(秋)


【語釈】

 鶸――「スズメ目アトリ科に属するカワラヒワ・マヒワ・ベニヒワ・ベニマシコ・イスカ・シメ・ウソなどの総称。ふつうマヒワをさす」(デジタル大辞泉)。

 そぞろ寒――「なんとなく寒さを覚えること。気持ちの上で感じる晩秋の寒さ」(大辞林 第三版)。


【大意】

 ヒワの鳴き声の転がる空のなんとなく寒いことだなあ。


【補説】

 郊外に生まれ育った私は10代の後半か20代の前半頃に人によらずにヒワの存在を認識するようになった。それ以来ヒワといえばたいていカワラヒワをいうものと思っており、生まれてこのかたマヒワなど他のヒワの存在を認識した記憶がない(単に私が無知なのであろうが)。そのカワラヒワの鳴き声が玉を転がしたようだと思った次第である。なお「鶸」も秋の季語。


「そぞろ寒」(すずろ寒)に類似の季語に「冷やか」「うそ寒」(「薄寒」「うすら寒」)「肌寒」「やや寒」「秋寒」等があり、いずれも秋の季語。「朝寒」「夜寒」も秋の季語だが「寒し」は冬の季語。


【参考句】

 目白にもをされぬ鶸の羽色かな 重頼しげより

 居りよさに河原鶸来る小菜畠をなばたけ 支考しこう

 鶸渡る空や寺子の起き時分 浪化ろうか

 水涸る堤ぐらし朝の鶸 助然じょねん

 赤い実がひママを上戸にしたりけり 一茶

 大根だいこ干すのきの日向や鶸の籠 正岡子規

 飛びかはす鶸よひたきよ雪のやぶ 泉鏡花


 よりかかる度に冷つく柱哉 一茶


 うそ寒き暗夜美人に逢着す 正岡子規

 きぬママぬや柳の風のうそ寒し 同


 肌寒し竹切る山の薄紅葉 凡兆ぼんちょう

 肌寒き始めにあかし蕎麦そばの茎 惟然いぜん

 肌寒きはじめや星の別れより 乙由おつゆう

 影見えて肌寒き夜の柱かな 暁台きょうたい

 肌寒をかこつも君の情かな 夏目漱石

 渋柿の実勝みがちになりて肌寒し 正岡子規


 やや寒く人を覗ふ鼠かな 乙州おとくに


 秋寒し藤太がかぶらひびく時 蕪村

 秋寒し此頃このごろあるる海の色 夏目漱石

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