月かけて香たちのぼる夜ふけかな

 つきかけてかうたちのぼるふけかな


【季語】

 月(秋)


【大意】

 月の表面にまでお香の煙がたちのぼる夜ふけだなあ。


【補説】

 風のない秋の月夜。盆の月のころ(旧暦七月十五日ごろ)はまだ虫がうるさく空気も濁りがちで、後の月のころ(旧暦八月十五日ごろ)は金木犀の匂いとかちあう憾みがありそうだから、中秋の名月のころと考えるのが良いかと思う。


【参考句】

 月いでて一燈むなし谷の庵 宗因そういん

 湖の魚に石打つ月夜かな 信徳しんとく

 椎の葉にもりこぼしけり露の月 素堂そどう

 夜ルひそかむしは月下の栗を穿うがつ 芭蕉

 犬ほえて我寝覚めけり月のしよく 言水ごんすい

 月や恥ぢぬ檜垣ひがきの女浴時ゆあみどき 同

 橙の花もけだかし月の前 路通ろつう

 猪の寝に行く方や明の月 去来きょらい

 馬の子の浜かけ廻る月夜かな 同

 真夜中や炬燵こたつぎはまで月の影 同

 野に寝たる牛の黒さを秋の月 嵐雪らんせつ

 山寺に米つくほどの月夜かな 越人えつじん

 曇りなき砂の月夜や須磨明石 許六

 酒買に舟漕ぎもどす月夜かな 正秀まさひで

 声かれて猿の歯白し峰の月 其角きかく

 住の江や夜芝居過て浦の月 同

 燃杭に火の付やすき月夜哉 同

 月影や海の音きく長廊下 牧童ぼくどう

 子を抱きて湯の月覗くましらかな 北枝ほくし

 辻堂にふくろ立て込む月夜哉 丈草じょうそう

 月清し水より立ちて五位の声 野坡やば

 背戸門にひよろひよろと出る月夜かな 支考しこう

 庵の月主をとへば芋堀に 蕪村

 大名をとめて蘇鉄の月夜かな 田福でんぷく

 名月や座頭の妻のかこち顔 闌更らんこう

 月影や田を遠近をちこちの水の音 召波しょうは

 橋の月裸乞食の念仏ねぶつかな 同

 月かけてとりで築くや兵等つはものら 同

 唐秬たうきびに駒や繋がん野路のぢの月 同

 大方は美女なりけらし月の前 暁台きょうたい

 休めたる臼に腰置く月見かな 五明ごめい

 草の戸や月さし入れて誰もなし 同

 古川や蘆根あしねの月になまづ鳴く 同

 草の戸や秋の日落て秋の月 几董きとう

 欠伸あくびして月誉めて居る隣かな 同

 睫毛まつげにも露置く秋や夜半の月 同

 水ばなに月澄みわたるひとりかな 同

 とび魚の飛ぶ夜隈なき月夜かな 同

 ふはと脱ぐ羽織も月の光かな 成美せいび

 深川や牡蠣殻山かきがらやまの秋の月 一茶

 すゞき提て酒屋を叩く月夜かな 内藤鳴雪

 暁や夢のこなたに淡き月 夏目漱石

 月前に高き煙や市の空 河東碧梧桐


 等閑なほざりに香たく春の夕哉 蕪村

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