隣との距離喜ばん閑古鳥

 となりとの距離きよりよろこばん閑古鳥かんこどり


【季語】

 閑古鳥(夏)


【語釈】

 閑古鳥――かっこうの別名。


【大意】

 カッコウが鳴いているがそれは隣家との距離の遠いためにちがいなく、そのことを喜びたいと思うのである。


【補説】

 徳は孤ならず、必ず隣有りとは孔子の言葉らしい。その道に同志のあることは喜ばしいことだが、人間と生まれたからには人と距離をとることを覚えたいとの私の思いが句に込められている。


「郭公」と書いてカッコウと読む場合とホトトギスと読む場合があるようでややこしい。おおむね昔は後者、最近は前者のようだ。句を観ると江戸時代には既に托卵の習性が知られていたようで興味深い。


【参考句】

 炉地下駄ろぢげたの音やこずゑの閑古鳥 言水ごんすい

 玉水たまみづ栄螺さゞへがら鳴クかんこ鳥 同

 うき我をさびしがらせよかんこどり 芭蕉

 風吹かぬ森のしずくやかんこ鳥 其角きかく

 侘びしらに貝ふく僧よかんこ鳥 同

 かんこ鳥啼や青砥せいとが台所 支考しこう

 須磨の浦閑古鳥鳴く夕かな 涼菟りょうと

 親もなく子もなき声や閑古鳥 蕪村

 飯櫃めしびつの底たゝく音やかんこ鳥 同

 金の出る山もと遠しかんこ鳥 同

 湯漬けくふ庫裏くりの広さやかんこ鳥 素丸そまる

 ほろほろと夏の落ち葉やかんこ鳥 暁台きょうたい

 松毬まつかさを落して行くや閑古鳥 五明ごめい

 むら雨の音しずまればかんこどり 几董きとう

 老樹枝たれて行道暗し閑古鳥 五律ごりつ

 閑古鳥青葉まじりの花の中 士朗しろう

 夏来れば人しづまりて閑古鳥 成美せいび

 かんこ鳥しなのゝ桜咲きにけり 一茶

 閑古鳥ひだるさうなりおそ桜 同

 桑の木は坊主にされてかんこ鳥 同

 死んだならおれが日をなけ閑古鳥 同

 夕暮に似たあけぼのや閑古鳥 梅室

 ひともせばあちら向けり閑古鳥 同

 閑古鳥三の鳥居は雲の上 洗耳せんじ

 雨の中を飛んで谷越す閑古鳥 村上鬼城

 山もだし水さゝやきて閑古鳥 幸田露伴

 幽禽いうきんと詩にこそ作れ閑古鳥 尾崎紅葉

 物言はぬ僧に逢ひけり閑古鳥 泉鏡花

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