遠花火美人の頬や紅潮す

 遠花火とほはなび美人びじんほゝ紅潮こうてう


【季語】

 遠花火(秋)※補説参照


【語釈】

「遠花火」は、遠くに上がる花火と解して問題ないようである。


【大意】

 遠くに花火が上がり、美人のほおが紅潮するのであった。


【補説】

 蕪村(1716-1783)の「さくら狩美人の腹や減却す」という句の手法をまねした。腹が減却すると表現したその人のやり方に比するとひねりのたりないうらみがあるようだが。思えば作者は、同じ蕪村の「 青梅に眉あつめたる美人かな」という句を知るまで句の中に「美人」の語を入れることを考えもしなかったものである(蕪村以前にもその語を使用した人はいる)。


 中七のは文法的にどうなるのかとかれると回答に少しこまる。語調を整えるために置いた特に意味のない語とでも思ってもらいたい。そんな言葉遣いをするに至ったのは「美人」に代わる四音の適当な語句を得られなかったためである。「麗人」「傾国」「傾城けいせい」「別嬪べつぴん」「き人」「くはしめ」「顔良し」「見目良し」「楊貴妃」等の案が出て、2つ目と3つ目は比較的良いが遊女の意味で使われていたようであるからついに却下した。


「花火」を秋の季語とする説と夏の季語とする説があるようで、「遠花火」についても同様に考えて良さそうである。花火はもともと秋祭りの奉納として打ち上げられたらしく、秋とする説がより古いものと考えられる。


【参考句】

 花火尽て美人は酒に身投げゝん 几董きとう

 思ふ事の空にくだくる花火かな 寺田寅彦

 遠花火開いて消えし元の闇 同

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