秋物の服や美人を隠しけり

 秋物あきものふく美人びじんかくしけり


〔季語〕

「秋の服」ということになるかと思う。


〔大意〕

 秋物の服が美人の姿を隠してしまうのだったなあ。


 表題の句にはちょっとしたテーマのようなものがあって、いわく、「美しいもので美しいものを隠す図」。浪漫派を自任する私の考えそうなことだが、悪趣味のきらい無きにしもあらずか。


 解釈としては、秋物の服のディスプレーやその服を着ている人の陰に入って美人の姿が見えなくなるという可能性と、美人の着ている秋物の服がその美人の体を隠しているという可能性が考えられそうだと思う。後者は、肉体美を良しとしただろうギリシア人やルネサンス的な発想といえるかもしれない。しかし、私は前者のように解したい。後者だと最も大切なパーツである顔を含めて全身が隠れるということはないだろうが、前者だとその人のおもかげがなくなるくらい隠れてしまうかもしれず、それが見ているものに対していっそう強く、見えなくなったものを惜しむ気持ちを起こさせるだろう。


 表題の句は、


 春をしむ人や榎にかくれけり 蕪村


という句に多くを依っている。中七なかしち(五七五の七の部分)の途中で「や」で切ったようにしている点、「かくれる/かくす」という動詞を使っている点、「けり」で結んでいる点等がそれである。目立った違いは、蕪村の句では「かくれけり」と自動詞を使っているのに対し、表題の句では「隠しけり」と他動詞を使っていることだろうか。この句によったのは、見えなくなったものを惜しむ気持ちが私にあったからだろうと思う。


〔参考歌〕

 三輪山をしかも隠すか雲だにも心あらなも隠さふべしや 額田王


〔参考句〕

 青梅に眉あつめたる美人かな 蕪村

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