秋の蚊の太つたを打つ躊躇ふや

 あきふとつたを躊躇ためらふや


「躊躇ふ」の「」は反語。


 秋の蚊の太ったのを打つ、それを躊躇うだろうか、いやわたしは躊躇わずに打つ。


 ご存知のことと思うが、血を吸うのはメスだけらしい。繁殖に必要な栄養を人畜の血液から摂取するのだろう。当人も好きこのんで人間に嫌われることをしているわけではなかろう。わたしが思うに、先方には感情がない。ただ人間の気配を感じたらほとんど自動的に血を吸いにゆくのではないか。そうやって子孫を残すために命の危険を冒してまで人間の血を吸って肥え太った蚊に、憐憫れんびんの情を催して打つことを躊躇うだろうか。


 わたしは遠慮なくそれを打つとしよう。

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