第6話 経営事情

「店を続ける……?」


「やっぱり君の両親は教えていなかったみたいだね。君の料亭は今のままじゃ潰れてしまうよ」


「潰れる!?」


 ショッキングな言葉を聞いて魔音は叫んだ。


 まさか自分の家でもある料亭が潰れるなんて思いもしなかっただろう。


「ここ数年で客が減っているんだよ。思えば今年の客は去年の半分くらいになっていると僕は思っていたけど、少しでも感じたりしなかったかい?」


「そういえば……」


 言われてみると減っている気がしている、と魔音は思った。


 いや、もしかしたら気づいていても見て見ぬふりをしていたのかもしれない。


「君の両親は心配させぬよう黙っていたようだが僕からは言わせてもらうよ。あの料亭は今のままだと潰れかねない」


「そ、そんな!」


「だが安心しろ。君の演奏と酒で客を泥酔させ金を多く取れば君の料亭は安定だ。いや、むしろ今までよりも儲かるかもしれないぞ。僕も協力する」 


(師匠……怖い)


 この言葉を聞いて魔音は師匠に対する気持ちが尊敬から恐怖に変わった。


(逃げなきゃ)


 魔音は師匠から離れるために一歩づつ後ずさりした。


「魔音、一緒にやろう」


(嫌……)


「大丈夫だ。証拠がなければ通報されても怖くない」


 胡弓が近づいてきた。


(来ないで……)


「魔音。師匠の言うことが聞けないのか! 僕は君の芸名の名付け親でもあるのだぞ!」


「……それなら私は」


「そうだろう。では一緒に……」


 魔音は立ち止まってこう言い放った。


「私は『魔音』という芸名を返します!」

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