第4話 異変
魔音が胡弓の屋敷に泊ってから数日、毎日のように魔音は屋敷に通い続けた。
練習後は寝床を共にする、という生活をしているので当然魔音は朝帰りだ。
それでも魔音の両親が止めなかったのには理由がある。これは後に明らかになるので今は見逃して欲しい。
魔音はこの生活を気に入り「ずっとこの生活を続けていればいづれ深く結ばれ、自分との結婚を考えてくれるのでは」と考えるようになった。
今年で十九になる娘だ。恋人がいる時点で結婚を意識してもおかしくはない。
好いた男と幸せな結婚を望むのも女の幸せの一つなので不思議ではない。
(胡弓さんとはまだ「恥ずかしい事」はしていなけど……いづれはきっと。そろそろキスしてもいい頃かも)
なんて下心を魔音は考えるようになった。
今日も屋敷で胡弓は魔音に指導していた。
「またクセが出てる!」
「す、すみません!」
胡弓はいつもより強い口調で指摘した。
「何度言ったら直すんだ! そこはもっと自然体で演奏するんだ!」
「は、はい」
やさしいイメージの師匠でここまで怒っている姿は初めて見たので魔音は驚いて少し戸惑っていた。
それが影響したのかもう一度演奏するとさっきよりもぎこちなくなってしまった。
「……」
(うっ……)
正座していた胡弓は立ち上がって魔音の隣に来た。
(胡弓さん。慰めに来たのですか?)
魔音は胡弓を見上げた。
バチン
「!?」
魔音は一瞬何が起こったのか理解できなかった。
平手打ちされたのだ。愛する胡弓から。
「どうしてお前は僕の言う事が聞けないんだ!」
「し、しょ……!」
胡弓は魔音の胸倉を掴んだ。
「答えろ! 僕の言う事が聞けないのか!」
「……」
魔音は驚きのあまり答える事ができなかった。
まさかあの優しい師匠がこんなに怒るとは思いもしなかったのだろう。
いや、むしろさっきの平手打ちが怒鳴られるよりもよっぽどショックだったのだろう。
「ごめんなさい……師匠……」
あまりにも恐ろしい師匠の姿を目にし、とうとう魔音は泣き出してしまった。
「も、申し訳ない!」
すると胡弓は目を覚ましたのか魔音を抱きしめた。
「ついかっとなってしまった。許してくれ!」
今度は一度引き離して魔音の目を見て言った。
「師匠……」
元の優しい師匠に戻って魔音は安心した。
「僕は君にうまくなって欲しいから。それでつい……」
胡弓は少し俯いた。
(師匠……)
魔音は師匠の期待に答えられない自分が情けなくなった。
(師匠を怒らせたのは私が力不足だから……)
「師匠、申し訳ありませんでした! これからは師匠の思い通りになれるよう精一杯精進しますので!」
「魔音……僕を許してくれるのか?」
「もちろんです」
「ありがとう。さて、続きをやろうか」
「はい!」
魔音と胡弓はそれぞれの位置に座りなおし、練習を再開した。
しかし、この日を境に胡弓の指導は荒ぶってしまった。
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