第35話 唯一の白編② デート回はたまにやるから面白い

 その後俺達は他愛もない話をしながらゆっくりと歩いた。緊張の糸が解けたからなのかいつもよりも饒舌になっていた気がする。それは茜も同じで、お互いなんてことはない話でも笑っていた。


 なんで茜がいつになく大胆なことをしたのか理由はわからないけど、ひとつだけわかったことがある。寂しかったんだ。

 茜と恋人同士になってからテスト期間になることは初めてではないけど、今回のテストは志望校にも関わってくる大事なテスト。自分が今できる最大限の努力をして臨むべきだ。今まではテスト期間中に茜と一緒に勉強する時もあったけど今回は一切会ってない。連絡も「おやすみ」とか「頑張って」とか簡潔なやりとりしかしなかった。試験勉強中も茜のことを考えることは度々あったけど、少しでも雑談を始めてしまったらだらだら長話をしてしまって全然集中できなくなりそうなのでずっと我慢してた。

 茜と付き合い始めてからこんなに茜と会いたいと感じたことはなかった。久々に会えたんだから普段はやらないこともやりたくなるんだろう。


 

 その後俺達はボウリング場に向かった。俺はボウリング未経験なので茜に連れられる形だ。茜にボウリングをする趣味があったことも知らなかったけど、それ以上に積極的にボウリングをやりたいと言ってきたことが意外だ。これも新たな一面。

 ハンバーガー屋から歩いて15分、ショッピングモールの中心あたりにあるボウリング場に到着。ボウリング場のピーク時間なんて知らないけど、土曜昼2時にしては客が少ない。俺達を含めてもたった5人しかいないから割と静かだ(なんとなく陽キャグループが騒いでるイメージだった)。

 俺は室内用の運動靴に履き替えるだけだったが、茜は「準備する」と言って更衣室に向かった。まぁ、今日着てた服はひらひらのスカートだったし運動するなら邪魔になるな。女子はデート中にスポーツするとなるといちいち着替えなきゃいけないから面倒だな。

 そうして着替えが終わって更衣室からでてきた茜は、女子プロボウラーが着るようなピチピチなミニスカートを着てこちらに向かってきた。

 ………ガチだな!!こんなに気合い入れてくるとは思わなかったわ!

 衣装は上下ピンクと白で統一していて茜のボディラインがはっきりわかる。いや、男として派手な格好をした彼女がそばにいるのは鼻が高いけど、なんだかドレスコートがあっていないようで申し訳なく感じた。最もボウリング素人の俺が男子プロボウラーみたいな恰好をしてもバカにされるだけだが。


「ど、どうかな?……」

出たよ。男がされたら困る質問ベスト3。女子の服装の感想。

褒めないのも良くないけどエロい目で見てるとわかると引かれるから言葉選びは慎重に…。

「うーん……動きやすそうだし似合ってるよ。ピンク色が入ってるのも茜のセンスって感じがする」

「ありがとう…。智樹にしてはずいぶんとたくさん褒めるね」

確かに普段の俺は人の服装をこんなに褒めたりしない。でも一番よかったところはミニスカートから露出している茜の太ももだったがな。

 派手な衣装をしている茜に他の客からも注目が集まっている気がする。俺達以外は男女のカップルが1組と男が一人。カップルの方はどちらかというと女の方が茜のことを見ている。カップルの男が茜のことをガン見していたら女の方に嫉妬されるから遠慮がちにちらちら見てくる。もう一人の男は茜の方を見た後俺に近づいていく様子を見て露骨に残念そうにしていた。

 

 さっそくボウリングのゲームを始める。俺はド素人で茜は経験者なのになぜか得点を競って対決することに。

 茜が先攻で一投目を投げる。少しだけカーブがかかって綺麗な軌跡を描きながらボールは先頭のピンに命中。全てのピンが倒れてストライク。

「やったー!」

茜が俺の元まで寄ってきて両手を広げて上に掲げる。

「お、おう」

条件反射的に俺も同じポーズをとって手を合わせてハイタッチ。対決してるんだから茜のプレイが上手くても喜ぶべきじゃないだろうけど。

 続いて俺の投球。ボウリングの詳しいルールも正しいフォームも全く知らない俺は見よう見真似でボールを投げる(ボールの穴に入れた指が投げるタイミングでちゃんと指から離れるか心配だった)。ボールは一直線に先頭のピンまで向かって命中。全てのピンが倒れる。…これは…ストライク。

「やったー!」

ド素人の俺がテキトーに投げたボールが偶然ストライク。ラッキーストライクだ。ビギナーズラックなのは疑いようがないけど、嬉しくなって舞い上がってしまう。

「う、うん」

俺のテンションとは裏腹に茜は少し気落ちしている、というかちょっと怒った顔で俺を見ていた。結果だけならさっきの茜と何も変わらないのにエラい対応の違いだな!

普段の茜は割と物腰が落ち着いている方だけど、勝負になると負けず嫌いで熱くなってしまう奴だ。……最も負けず嫌いなのはお互い様だけど。


 その後の茜は快調な様子で次々にボールを投球して3連続でストライク(ターキーとか言うらしい)を取った。対する俺は最初の一球は本当にただのビギナーズラックだったらしくそれ以降の結果は散々だった。

 周りで見ている人達は茜の見事な投球に釘付けだった。その茜と一緒にボウリングをしている俺もどこか期待して見ていたかもしれないけどご期待には添えない。

 ゲームが終わってスコアを確認すると茜と俺とでは3倍以上の差がついていた。結果的には大敗だったけど、まぁボウリング自体初めてやるし最後の方はちょっとだけ慣れてきた。負けて悔しい気持ちもほんの少しあったが、プレイ中茜がずっと楽しそうにしていたし、また来たいと思うくらいには満足していた(そうしたら茜のミニスカ姿も拝めるし)。

 


「ボウリング久々にやったけど、こんなに上手くできるなんて思わなかったよ!」

「ホントにすごかったな。勝負してるなんて忘れて俺もすげぇすげぇ言ってたし」

「ありがとね。付き合ってくれて」

「……おう。ボウリングまたやってもいいぞ」

「…うん…それもそうだけど…あたしがただやりたいことに付き合ってくれて嬉しかったなぁって」

「そんなのあたり前だろ、彼氏なんだから。それに茜と一緒にボウリングできて俺も楽しかった」

「ありがとう」

確かに俺は元々ボウリングに興味はなかった。茜に連れてこられなかったら自分から進んでやろうとは思わなかった。だが……。

「茜が楽しそうにしてると俺も楽しい。だから…これからも茜がやりたいことを共有したい」

「…フフ」

「オイオイ笑うなよ」

「だって智樹っぽくないこと言ってるなぁって。なんか恥ずかしくなってきた。ていうか『共有したい』ってなんか変な表現」

「わかったよ!もうこんなこっぱずかしいこと言わないからなー!!」

「フフ、アハハハ!智樹、あたしの好きな所いっぱい連れてってね」

「…おう!望むところだ!」


俺達は次のデートの予定を立てながらゆっくりと歩いた。



 

 

 

 



 

 

 

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