第3話
戸川警察署に電話があったのは、午後1時を少し回ったころ。それは、近所のアパート住人からの通報だった。通報の内容は、以下の通り。
隣の部屋から何かを殴りつける音が一時間以上聞こえている。アパートの管理人が音のする部屋を尋ねても、部屋からの応答はない。部屋には鍵が掛かっており、管理人の持つ合鍵で開けることは可能であるが、何かのトラブルの可能性もあるために、一緒に立会して欲しい。以上が電話の内容であった。
この為、2名の警察官がそのアパートに向かうこととなった。
署への連絡から30分後に、パトカー一台がアパートに到着した。
パトカーの中には、警察官が2名乗車していた。
「佐藤さん、これってもしかして事件ですかね?」若い男が冗談混じりに隣の男に尋ねた。
「馬鹿野郎、ただの夫婦喧嘩だろう。こんな時間に迷惑なこった。山田、早く終わらせて一服すっぞ」顎髭を生やした年輩の男は、そう言ってパトカーから降りた。
佐藤は、スタスタとアパートの玄関のホールを通り過ぎ、エレベーターへと入いる。山田もその後に続いた。
エレベーターが指定された3階で止まり、連絡のあった部屋の前に近づくと、住人が3名立っていた。若者の男が2名と、年輩の女性が1名である。
「警官さん、夜遅くにすみませんねぇ」その中の一人、年輩の女性が佐藤へ話しかけた。
「いいえ、これも仕事ですから。管理人さんはどの方で?」佐藤は尋ねた。
「私が管理人です。こちらが部屋の鍵ですよ」年輩の女性はそう言って部屋の鍵を佐藤に手渡す。
「ありがとうございます。部屋の住民のお名前はなんとおっしゃるんでしょうか?」
「柴田さんです。柴田俊夫さんと柴田京子さん。」女性は答えた。
「なるほど、の二人暮らしですか。お子さんなどは?」佐藤は再度尋ねる。
「子供はいませんよ、若い夫婦の二人暮しです。」女性は再度答えた。
「分かりました。それでは私達が先に部屋に上がり、状況を確認します。その後は管理人さんへ状況をご報告いたしますので、出来ればその後に住民の方々へご説明をお願いします」
「ええ、分かりました。それではよろしくお願いします」管理人の女性はそう言って軽く頭を下げ、エレベーターの方へと歩いていった。
佐藤は、ドアノブに鍵を挿し、慎重に部屋の鍵を開けて玄関に足を入れた。
玄関辺りは真っ暗である。
「すみません。警察ですが、柴田さんいませんか?」佐藤は何度か声掛ける。
「すみません。警察です。柴田さん?」佐藤がいくら呼んでも応答はない。後ろで待機している山田が話しかけた。
「佐藤さん、やっぱこれ、事件なんじゃ・・・」
「まぁそう怯えるなよ。大丈夫さ」そう言って佐藤は、右柄の壁にあった電源スイッチを押し、玄関と廊下の電気をつけた。
「よしっ、いくぞ」佐藤は音のする部屋の方へと歩き始めた。山田もその後に続いた。
音のする部屋へ一歩、また一歩と慎重に歩いていた二人は、一度廊下で立ち止まった。 音のする部屋に近づいている最中に、突然女性の大きな笑い声が聞こえ始めたのだ。場所は多分、この先の部屋だ。声の主は恐らく、この部屋の住民の、柴田京子さんだろう。キャハキャハと声高い女性の声。声が聞こえた直後、佐藤は振り返り、後ろの山田と目を合わせた。二人で数秒アイコンタクトを取る。
そして、再び部屋の方へと二人は進みはじめた。
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