第2話
柴田俊夫は午後十一時に、仕事場からアパートに帰宅した。本日もいつもと同様、時間外労働を行なっての帰宅である。古びたコンクリートアパートの三階306号室が彼の部屋。エレベータに乗り、自分の部屋のある階で降りる。部屋の前まで歩き、玄関のドア鍵を開けて中に入った。
俊夫は、ふと気づく。
部屋の奥から、何かの音が聞こえてくる。京子だろうか?
彼女は出会った時から、気に入った歌手のCDを手に入れると、大音量で聞く癖があった。今回もそうだろう。一度前に注意したはずなのだが。
戸締りの為、俊夫はいつものように玄関のドアノブの鍵を回しかけ、音のする部屋の方へと歩いていった。
もう夜の十一時を回った頃だ。他の住民から苦情がくる前にやめさそう。今回は、前よりもっとキツく注意する必要がありそうだ。
俊夫がそんなことを思いながら彼女の部屋のドアを開けた。
京子が力いっぱい何かを振り下ろしていた。あれは、僕の木製バットだ。
彼女は、木製バットを使い床に仰向けになった女性を叩き続けている。
部屋中にバットの当たる音だけが響いていた。音楽は一切流れていない。
「な、なに・・・してるんだ?」俊夫は恐る恐る京子に尋ねた。
その声に気づき、京子は叩くのをやめて、俊夫の方を見る。
「・・・あら、俊夫さん、おかえりなさい」京子が微笑んだ。
「ご飯にする?それとも、お風呂かしら?」また京子が微笑む。
「なっ、そうじゃなくて、何をしてるんだ?なんでこんな・・・ことを」
ふふっ、京子は一瞬微笑み、直ぐに両目を大きく開いた。
「この女がいけないのよ!!あなたに手を出した、全てこいつのせい!!」京子はバットの先で、床に転がる女性の頭を叩く。叩かれた彼女は微動だにしない。
「叩くのをやめろ!!そ、そうやってそのバットで、え、絵美を殺したのか?」俊夫は京子に訊ねる。
「えぇ、終わりにしてあげたの。これでまた二人きりよ・・・」京子はそう言うと、自らのポケットから煙草を取り出し、口に咥えた。
「そんな、そんな・・・」俊夫は膝をつきながら、床で転がっている女に這いよった。
「絵美、起きてくれよ。なぁ、絵美・・・」俊夫は涙を流し、その名を呼び続けた。
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