彼のきっかけ
中山華月
第1話
季節は夏。机の上に置かれたデジタル時計は、午後2時過ぎを表示していた。
柴田京子は、近くにあった木製のバットを両手に持ち、ある一点目掛けて叩きつけた。
狙いは見事命中。白いワンピースを着ていた標的が、仰向けの形で床に崩れ落ちていく様を、彼女は見つめた。
標的が倒れる瞬間、心の中に溜まっていたドロのような何かが昇華していくのを、京子は感じた。
これで全て元どおり。私と彼を邪魔するものは、これで誰もいなくなった。
京子は冷静に努めて、床に仰向けになって倒れた標的を確認する。
白いワンピースを着たそれは、仰向けになったまま微動だにしない。
先ほどバットで強く殴った箇所は、背中まで伸びている黒い長髪に隠され、ここからは確認することが出来なかった。
ここから見えるのは、倒れた勢いで乱れた服と、そこから覗く透き通るような白い肌。ワンピースの裾からは細く艶やかな手足が伸びており、床へは扇型に黒い長髪が広がっていた。
そんな姿に、京子はまた殺意が湧いた。
そして再び、バットを叩きつけてやった。後頭部目掛けて、ドン、ドン、ドン。
始めの時とは違い、床に倒れている標的を叩くにあたり、何度か打点の軌道修正を余儀なくされた。
けれど無我夢中で何度も叩いているうちに、狙ったところへ当てることが出来るようになった。
叩いている最中は何故か殺意を忘れ、狙っている一点に集中し叩くことができた。
京子は汗を手で拭いながら、ただひたすらに標的をバットで叩き続けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます