彼のきっかけ

中山華月

第1話

季節は夏。机の上に置かれたデジタル時計は、午後2時過ぎを表示していた。

柴田京子は、近くにあった木製のバットを両手に持ち、ある一点目掛けて叩きつけた。

狙いは見事命中。白いワンピースを着ていた標的が、仰向けの形で床に崩れ落ちていく様を、彼女は見つめた。

標的が倒れる瞬間、心の中に溜まっていたドロのような何かが昇華していくのを、京子は感じた。

これで全て元どおり。私と彼を邪魔するものは、これで誰もいなくなった。

京子は冷静に努めて、床に仰向けになって倒れた標的を確認する。

白いワンピースを着たそれは、仰向けになったまま微動だにしない。

先ほどバットで強く殴った箇所は、背中まで伸びている黒い長髪に隠され、ここからは確認することが出来なかった。

ここから見えるのは、倒れた勢いで乱れた服と、そこから覗く透き通るような白い肌。ワンピースの裾からは細く艶やかな手足が伸びており、床へは扇型に黒い長髪が広がっていた。

そんな姿に、京子はまた殺意が湧いた。

そして再び、バットを叩きつけてやった。後頭部目掛けて、ドン、ドン、ドン。

始めの時とは違い、床に倒れている標的を叩くにあたり、何度か打点の軌道修正を余儀なくされた。

けれど無我夢中で何度も叩いているうちに、狙ったところへ当てることが出来るようになった。

叩いている最中は何故か殺意を忘れ、狙っている一点に集中し叩くことができた。

京子は汗を手で拭いながら、ただひたすらに標的をバットで叩き続けた。

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