第198話お母さん! 母と魔女

 何を思ったのか、母親がブラックを見るなり「カレー作ったから食べなさい」と発言。

 ブラックも「はーい」と猫撫で応え、何故か俺と母親はブラックと一緒に食卓を囲んでいる。


 一般家庭に金髪で黒いローブを身に付けたコスプレ美女がいる風景は一昔前に流行ったコラ画像のように見えるだろう。

 しかも、時刻は深夜2時。

 真夜中に食べるカレーは不思議と味がしなかった。


「初めて食べるけど、これ美味しいわね~」


「あらそう!? やっぱり、外人さんなのね~。国はどこなの?」


「ユスフィアよ~」


「あぁ! 聞いた事ある! 確か、ヨーロッパにあったわね! 私、昔、ドイツに行った事あってね! いやー。景色が良かったわ~」


「それは素敵ね~」


 これ、なんで会話成立してんの?

 ブラックは異世界の話をし、母親はヨーロッパの話をしているがツッコミ不在の為、ボケが交通渋滞を起こしている。

 俺がツッコンダ方がいいのか?

 いや、しかし、俺、母親の前だと無口キャラだから母親にツッコミ入れるの凄い抵抗あるんだよなぁ......。


「つとむにこんな可愛い彼女がいたなんてね! あんた、もっと早く紹介しなさいよ!」


「あ、あぁ......」


 彼女でもないのに、部屋に女を連れ込んでいたとなるとそれはそれで面倒だ。

 俺は彼女という括りを否定しなかった。

 まあ、少し経ったら「別れた」と嘘を付けば良いだけ。


「うぅ......。うぅ......」


「え!? 何!? 急にどうしたの!?」


 突然、母親が目頭を押さえ、獣のうめき声のような低い声を出し、目からはボロボロと大粒の涙を流し始めた。


「いや......。孫が見れると思わなくて......」


「......」


 いや、気が早すぎだろ......。

 結婚の”け”の字も出てないだろ......。

 母親は60歳を超えたあたりから急に涙脆くなった。

 恐らく、孫を抱く姿を想像したと思われる。


 ブラックを見ると、ニコニコしながら不思議な生物を見るように母親の泣いている姿をジッとみており、俺は「どうしてこうなった!」と頭を抱えた。


「そういえば、あなた、名前は~?」


「桐島......桐島京子......」


「京子ね~。私はブラックよ~。よろしくね~」


 泣いている母親とニコニコ顔の金髪美女。

 対照的な二人をこのまま一緒に居させてはいけないと考え、ブラックの手を握り自室に向かった。



 ◇ ◇ ◇



「ブラックって言ったか!? あんまり勝手な事すんな!」


「あら~。怒られるなんて久しぶりで興奮しちゃう~」


 自室の扉を閉めた直後、俺はブラックに対して怒りをぶつける。

 しかし、ブラックは「あんたに怒られてもちっとも怖くないよ」と言わんばかりに俺の発言を茶化した。


「はぁ......。何で俺は異世界に帰らなくちゃいけないんだ?」


 先程、俺は不思議な力によって宙に浮いた。

 微かにだが脳裏には俺が異世界にいたという記憶もある。

 ブラックの容姿やどこか浮世離れした雰囲気からも伺えるように、ブラックの言っている事は真実なのだろう。

 俺はベッドに腰掛け、ブラックと真面目に話をしようという姿勢を見せる。


「魔王が復活するからよ~」


「魔王? それって、漫画とかに出てくるめっちゃ強い奴?」


「ん~?」


 ブラックは眉毛を下げ、困ったような表情を見せる。


「ああ、はいはい。こんな奴だ」


 漫画という言葉が理解出来なかった可能性がある。

 俺は咄嗟にスマホで『魔王 画像』と検索し、ブラックに見せる。


「これは何~?」


「魔王だけど」


 スマホ上の魔王は黒いマントを身に着け、角が生え、悪魔のような異形な形をした者達を大勢引き連れている。

 見ようによってはヴァンパイアのような姿をしていた。


「え~。魔王に身体はないわよ~。まさか、そんなことも忘れちゃったの~?」


「そんな事っていうか、全部知らん」


「あら~。困ったわね~」


 ブラックは豊満な胸を抱え上げるように腕を組み、再び困り顔を見せる。

 最近、若い子と触れ合う機会がなく、免疫が低下している為か俺はブラックの胸元から目が離せなかった。


「シルフの事も忘れちゃったの~?」


「誰だそれ。知らん」


「あらら~。これは重症ね~」


 重症?

 そのシルフとか言う奴は俺にとって重要な人物なのか?


「その______」


 ブラックにその名の人物の事を尋ねようとすると、ブラックが大きなあくびをし、俺が腰掛けているベッドに倒れ込む。


「ちょっと、久々に疲れたから寝るわ~」


「あ!? 寝る!? 帰れよ!」


「帰る場所なんてないわ~。おやすみなさい~」


「いや! ちょっと!」


 適度に肉付きの良い肢体、金色の髪からは花の香りのような気持ちを落ち着かせる良い匂いが薫り、極上の美人を前に俺の理性は暴発寸前だった。

 俺が興奮していることをブラックも感じたのか、「少しくらいだったら変な事しても良いわよ~」と年長者のような余裕を見せ、俺はその日、ブラックのたわわな胸元に顔を埋めて眠りについた。

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