第119話お母さん! 第五回戦は3ON3!

「さあ! では! 第五回戦を発表します!」


 最終戦。

 最後の円陣で遺恨を残す形となってしまったが気持ちを切り替えていかないといけない。

 まあ、これで負けたらこいつらのせいだ。


 メイドから紙を受け取り、司会が声タカ高に宣言。


「第五回戦は3ON3です!」


 3ON3... ...。

 簡単に言うと3人制のバスケだ。

 天音に聞くとこの国の国技はバスケらしい。

 ルールもバスケに酷似しており、ゴールにボールを入れれば1点。更にスリーポイントラインのような所から入れれば2点とバスケのルールを知っていれば異世界人である俺でも飛び込み参加出来る。


 何を隠そう。

 俺はバスケ部だった。

 この試合内容を把握した時、勝てるのではないか?

 と思った。

 俺はバスケ経験者だし、何よりもこちらには身長がデカイホワイトがいる。

 身長の大きさはこの競技における最大の利点。


 ただ、何よりも尊重したかったのは天音の思いだった。


「3ON3... ...」


 天音が顔を曇らせ、視線の先には姉である鈴音の姿が... ...。


「天音! 行けるよな!」


 小刻みに震えている天音の背中をありったけの力で叩く才蔵。

 天音は胸を押さえて深く深呼吸し。


「行ける! あたしは負けない!」


 彼女の表情からは以前のような弱々しさは感じない。

 覚悟を決めたんだ。

 姉に勝つというよりも自分を変える選択をしたに違いない。


「で、メンバーはどうするの? あたしはやった事ないわよ」


 俺はシルフの肩を掴んだ。


「シルフ。お前には重要なことをやってもらう... ...」


「は? ちょっと、息臭いから近づかないで。それと、何度、どさくさ紛れて触るなって言えばいいの? 真剣に嫌いなんだけど」


「... ...」


 シルフはこんな状況でもマイペースというか、何かこれはこれでブレなくていいなとも思うが、恐らく、こういう人種は盛り上がった状況で「あたし用事あるので帰ります」とか言うタイプに違いない。



 □ □ □



 会場内にはフローリング材やバスケット用のゴールが運び込まれ、簡易的なフロアが用意される。

 職人風の連中が作っていたのでフロアの上に立っても床が浮いたり、滑ったりするような事はない。

 練習用で渡されたボールを上下についてみても弾み方も問題ないし、劣悪な環境で試合をするという不安は取り除かれた。


「さあ! 両陣営選手が出そろいました!」


 俺の目の前にはハンヌ陣営である鈴音、トム、ミーレが用意された青いユニフォームに袖を通し、白いバッシュを履いて、自信満々といった様子で腕を組んでこちらにガンを飛ばす。


「天音。中々、良い友達を持ったじゃない」


「... ...まあ」


 先程までの凛々しい表情はどこに行ったのか?

 鈴音を前にした天音は以前の弱々しさが戻っていた。


「HAHAHA! さっきは負けてしまったが僕はバスケも得意なのだ! 今度は負けないぞ!」

「あっはは! あたしも負けないぞ! 食べ過ぎたから丁度いい運動なのさ!」


 二人して高笑いをするトムとミーレ。

 似たようなテンションの奴が二人もいるとこんなにもやかましさは増すのか... ...。

 ってか、トムの奴はいい加減、目を覚ませよ。

 こういう洗脳パターンだと俺に倒されたら洗脳解ける系だろ。


 俺はやかましい二人を無視し、鈴音に話しかける。


「鈴音。お前にとって天音は何だ?」


 鈴音はこちらを見やる。


「あんた誰? なに、気軽に話かけてんの? は?」


 うっわ... ...。

 すげえ性格悪そう... ...。


「花島だよ! さっき、トムと試合して勝ったろ!?」


「あ、そん時、失明してたから」


「... ...それなら仕方ない」


 お大事にね。


「姉さん。私からも聞きたい。姉さんにとって私はなに?」


 天音は一直線な眼差しを鈴音に向ける。


「うーん。そうね。可愛い可愛いあたしの玩具おもちゃってところかな?」


 鈴音は唇に人差し指を当て、10代の女の子のように首を傾げた。

 天音を挑発する意思は感じられなく、それが本心だというのは何となく分かる。

 それは天音にも感じられたのだろう。

 天音は「... ...そっか」と呟き、視線を外した。


「さあ! 第五回戦ですが、ここで特別ルールが付け加えられます!」


「特別ルール?」


 鈴音は予定調和にない事を言われて動揺したのか、司会の言葉をオウム返しする。


「え~。今まで、能力や魔法の類は人体に与えなければ何度使用してもOKでしたがこの戦いでは三回までの回数制限を設け、さらに、対戦相手への使用及びボールへの使用は禁止とします」


「___!? なんですって!?」


 さすがの鈴音も動揺したのか声を荒げて驚き、自身のリーダーでもある半袖丸を見やる。

 半袖丸も予定が狂って焦っているのか親指の爪を悔しそうに噛んでいた。


「ん?? どうした? 顔が真っ青じゃないか」


 俺はしたり顔で鈴音に向ける。

 シルフには対戦内容をこちらに有利なものに変えていないと言ったがそれは事実だ。

 ただ、相手の有利な状況にもしていない。

 相手側には魔法少女達がいる。

 第五回戦でその火力を存分に発揮しようとしているのは見え見えだった。

 だから、俺はそれを制限した。

 これで使いどころというのを考えざるを得なくなった。

 だが、それはこちらも同じ状況。

 まあ、ガチガチの真剣勝負となった訳だ。


「... ...お前、名前を何という?」


 敵意は駄々洩れだが、鈴音は俺を人間とし認めてくれたのか?

 正直、こういうセリフを言われるのに少しワクワクしてしまった。

 いかんな。これは少年漫画脳の大人を惑わせるパワーワードだ。


「花島。花島つとむ。お前を倒す男の名だ」


 名前を言ったのと同時に審判がセンターコートに各陣営のジャンパーを呼ぶ。



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