第118話お母さん! 王位継承戦ファイナルバトル!
【闘技場内】
大歓声が一迅の風になり、会場内を包み込む。
天音とエイデンとミイラのように包帯をグルグル巻きにした才蔵を連れて戻るとホワイトが闘技場の中央から泣きながらこちらに向かってくる。
「ごめん... ...。負けちゃった」
負けた?
確か、第三回戦は伊達が出場していたはずじゃあ... ...。
パス陣営を見ると既に才蔵は戻っており、温かいお茶を啜っていたので俺は足早に近付き。
「あれ!? お前、何やってんの? 試合は?」
早く答えればいいのに伊達は再び、お茶を啜り。
「すまん。1分も持たなかった」
伊達は悔しがる素振りも見せず、何故かこちらをキリリとした目線で見てきたので鈍器で頭をカチ割りたくなった。
俺と同じ気持ちになったのか、シルフは伊達の後頭部を殴打。
伊達は湯呑が唇に当たって出血し、俺はそれを見て「ナイス! シルフ!」と心の中でガッツポーズ。
「時間がないわ。成果はあったの?」
闘技場に戻るや否やシルフは尋ねる。
「ああ。もう大丈夫だ」
「???」
もう、大丈夫。
俺の言葉にシルフは疑問符を浮かべる。
「さあ! 王位継承戦もいよいよクライマックス! 次の戦いの勝利陣営が王位継承権を授与され! 次世代の王になる事が決定します!」
司会の言葉にさらに盛り上がりを見せる観客。
「さあ! そして、次の対戦は... ...」
メイドから紙を受け取り、中身を確認する司会。
「あなたが指定した対決は何かしら? まあ、私の得意分野なら出場してあげてもいいわ」
シルフは得意げに鼻を鳴らす。
「いや、対戦内容の操作は行わなかった」
「____は!? なんですって!?」
シルフは慌ててこちらを見やる。
先程、俺が立てた本当の作戦とは違っていたから無理もない。
「確かに先程まで俺は対戦内容を確認し、それをこちらに有利な対戦に差し替えようとしていた。ただ、少し状況が変わって... ...」
俺は天音かエイデンがハンヌ陣営側の裏切り者だという予想をしていた。
シルフが俺の作戦の真意を口にしようとしていた際に黙らせたのは二人にそれを悟られない為。
口を塞がれた事でシルフは状況を理解し、俺達を送り出したにも関わらず、予想していた仕事をしていなかったのだ。
声を荒げるのは当然だ。
「状況ってなに?」
シルフは冷徹な魔性の女のように言葉を吐く。
こいつが悪い魔女なら次の発言を間違えたら氷漬けにされてしまうだろう。
「う~ん。皆の得意分野わからなかったんだよね」
「... ...確かに」
少しの間を置き、まさかの納得。
シルフはうんうんと頷く。
ほっ... ...。良かった。
これで天音の裏切りを発表しないで済むぞ。
だが、俺の気遣いを無視し、天音はみんなの前で頭を下げ。
「みんなスマン! 実は私は... ...」
おいおい!
今、そんな事言うな!
俺が気を遣ってやったのに無駄にするな!
天音が真実を口にしようとすると才蔵が横から割って入り。
「皆、心配かけた。俺はもう大丈夫だ」
「... ...才蔵」
天音は才蔵の大きな背中を見上げる。
才蔵の背中からは天音の全てを背負うと言わんばかりの覚悟のようなものが滲み出ていた。
「王位継承戦... ...。あと一戦で全てが決まる。皆、それぞれ感慨深くそれをひしひしと感じているだろう」
... ...そうだな。
異世界に来て俺がこんなにも活躍した事はなかった気がする。
何より、勝てない闘いでも臆することなく立ち向かえた。
俺は俺なりの頑張り方で皆の力になれる事を知った。
もう、成長する年齢でもないと勝手に線引きをしていた頃の自分に今の俺を見せてやりたい。
才蔵の言葉に心を震わせていると、空気が読めないシルフがポロっと言わなくてもいい想いを口にする。
「いや、私は別に... ...」
え~... ...。
今、それ言う?
「いや! それ思ってても口にしなくていいから!」
「あら? 想いという物は時には口に出して言った方がいいものよ」
それはそうだがシルフの想いは今は言う必要がないものだ。
良い空気が壊れるかと思ったがヴァ二アルが突然と笑い出す。
「アハハ! そうだね! 実は僕も何にも感じてないんだ!」
え?
マジで?
ヴァ二アルがそんな事を言い出したらダメだろ。
と思ったが次々にヴァ二アルの言葉にみんな同調していく。
「俺も」
「私も」
何こいつら... ...。
こんなに頑張ってきたのに体育祭の延長線上くらいにしか思ってなかったの?
第一回戦と第二回戦で本気出した俺と才蔵がダサく見えちゃうじゃん。
才蔵に至っては重症まで負ってマジで何だったの?
才蔵もみんながお遊戯感覚で参加していたのを知ったから相当落ち込んでいると思いきや、才蔵は「ククク... ...」と悪人のような笑い方をしていた。
なんだ?
こいつ、マジで頭をおかしくなったのか?
と精神状態を疑っていると才蔵がある有名な詩の一小節を口にする。
「みんな違って、みんないい」
まさかの金子みすゞの詩を口にする忍者。
才蔵の懐の広さを垣間見て、「才蔵、カッコイイ... ...」と天音や伊達が才蔵に慕う理由が分かった気がした。
「ただ、何も感じないけど、負けたら悔しいわね」
これはシルフなりの鼓舞の仕方なのだろうか?
いや、恐らく、それもシルフの想いなのだろう。
「よし! 円陣組もうぜ!」
「えんじん?」
「なんだそれは?」
テンションが上がった俺は士気を高める為に円陣を提案する。
そうか。
この世界には円陣はないんだな。
俺は隣に居たシルフの肩に手を回し、円陣の説明をしようとしたがシルフが肩を払って俺が触れる事を露骨に拒否。
「ちょっと! どさくさに紛れて触るのやめてよ!」
「いや! これが円陣だから!」
「じゃあ、やらない」
くっ... ...!
何だよこいつ!
協調性の欠片もないな!
知ってたけど!
仕方がないので俺はエイデンの肩と伊達の肩を借りて円陣を説明。
「いいか? こうやってお互いの肩を組んで『いくぞ! うおい!』って声出すんだよ」
「いくぞ! うおい! って何なの花島? ちょっとダサいよ」
ヴァ二アルはニヤニヤしながら俺の発した気合を小馬鹿にする。
ヴァ二アルが美少女の状態で本当に良かった。
でなければ、俺は今、ヴァ二アルの上唇を引きちぎっていた。
「ま、まあ、ここまで来れたのは花島のおかげでもあるし、みんな、乗ってあげようよ?」
ホワイトが説得すると「はいはい」と言いながらお互いの肩を組みだすチームメイト。
本当... ...。ホワイトだけが俺に優しい... ...。
ホワイトとも結婚したい... ...。
と切実に願った。
「お前ら! 絶対に勝つぞ! いくぞ! うおい!」
「... ...」
「... ...」
「... ...」
気合を入れたにも関わらず、声を出したのは俺だけで顔面から唐辛子の実が生るくらいに恥ずかしかった。
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