エルフの王女と国を立て直す
第26話お母さん! 異世界にマンションを作りました!
_____「ホワイトシーフ王国宮殿内」_____
塔のようなものがゴーレムの森に作られ、兵を集め、敵襲に備えていたのだが、一向に攻めてくる気配がなく、シルフに苛立ちだけが募る。
王座の椅子に座るシルフは頬杖をつき、不機嫌そうに。
「ちょっとセバス~。あれから、誰も攻めてこないじゃない」
「そのようですね... ...」
あれ程、騒いでいたにも関わらず、敵襲が全くないのでセバスは肩身が狭そうに縮こまる。
「『そのようですね!』 じゃないわよ! あなたが攻めてくる!! っていうから兵を集結させたのに恥掻いちゃったじゃない!!」
「も・申し訳ございません... ...。もう一度、馬になる罰でもなんでもお受け致します!!!」
何故かセバスは嬉しそうだ。
馬になりたい奴など、どこの世界を探しても彼だけだろう。
「それは良いわ... ...。はあああああああ~。絶対、あたし無能って言われてるわよ... ...」
セバスは少し物憂げな表情。
「う・馬になれないんですね... ...。それよりもシルフ様を無能だなんて滅相もない!」
「口ではみんなそう言うに決まってる。だって、あたしの耳に入ったらブッ殺しちゃうから。あなただって本当は無能なエルフだと思ってるんでしょ? 口に出さないだけで... ...」
「そんな、シルフ様は若くして国王様、王妃様の後を継がれて頑張っています! 私はちゃんと見ておりましたよ!」
「頑張ってるって... ...。ふん。頑張ってても結果がついてこないと意味ないじゃない。それにあんたに見て貰ってたって嬉しくない」
「そうですか... ...。申し訳ございません。」
「すぐ、謝る奴嫌いよ」
「... ...」
シルフは親の愛情に触れる機会が少なく、かつ、物心ついた時には一国の権力者としての地位にいた。
彼女が精神的に安定を保っているとは考えられない背景があり、それを献身的に支えているのは誰の目から見ても執事であるセバスだった。
セバスに厳しい言葉をかけるシルフの姿を見た兵士やメイドたちはいたたまれない思いからか一様に目を背ける。
「今、あたしの事めんどくさいと思ったでしょ?」
「いえ! 思っておりません!」
シルフはセバスを睨む。完全に殺意のある目で。
それは長年連れ添ったセバスに向ける目ではない、彼女も自覚している。
しかし、自分の感情を抑える事が出来ないのだ。
齢17。
世間では結婚して子供が居てもおかしくない年齢で、もう、立派な大人。
しかし、シルフは世間とは大きく違った生活をしている。元々、しっかりしている性格なのだろうか。
自分が相手を困らせているという事は自覚しており、迷惑をかけた後は自責の念に駆られる。
しかし、頭に血が上ると目の前が見えなくなる。
彼女が自身の行いに気付き、ハッとした瞬間、いつも決まって怒りの矛先の相手から目を背ける。
セバスもそれがどういう意味を持つ行為かは理解していた。
父のように母のように長年シルフを支えてきたセバスもただの使用人。
セバスは自身の身分をわきまえ、いけないとは思っていてもシルフを𠮟責することなど出来ずにいた。
_____ドンドン!!! ドンドン!!!
王宮の扉を強く叩く音が辺りを包み、扉の近くにいた兵が扉を開けると息を切らした兵が扉が完全に開き切る前に室内に流れ込む。
「おい! お前! 王女様に対して無礼だぞ!」
扉を開けた兵に注意され、飛び込んできた兵は姿勢を正し、敬礼。
「どうした? そんなに慌てて」
兵の様子がおかしいのは一目瞭然。
セバスは怒らずに質問。
「はっ! 実は町でこんなビラが撒かれていて... ...」
セバスはビラを受け取り。
「___これは!?」
セバスのリアクションを見て、シルフはセバスにビラの内容を教えるように命令。
「何が書いてあるの?」
「... ...何がと申しますと」
セバスは回答に困り、ビラを一段上がった場所にいるシルフの元まで届け、直接確認してもらう。
【分譲マンション販売開始!! 敷金・礼金・仲介手数料・家賃無料! 水洗トイレ・バス・ガスコンロ付き! 景色抜群です! 場所:ゴーレムの森 *一時間に一回迎えのものが森の入口までお迎えにあがります】
綺麗な字でコミカルな絵と現地の地図が添付されたビラ。
この世界で見たことのないようなデザインとフォントにシルフは一瞬、困惑した表情を浮かべ。
「マンション? 水洗トイレ? 何これ?」
「いえ! 分かりません!」
「はあ~。あなたよく分かりもしないものに驚いていたの?」
「いや、何となく... ...」
シルフはビラを持ってきた兵を見やる。
兵はかしこまって姿勢を正すが、返ってきた内容はシルフを満足させるものではなかった。
「はっ! 私も分かりません!」
「____何よ! あなた達、何も分かってないじゃない!」
癇癪持ちのシルフは無能な執事と兵を𠮟責し、大声を上げる。
そこで、兵は言葉を付け足す。
「ゴーレムの森に町の者たちが向かっているのを見ました!」
「... ...ゴーレムの森に突然出来た城、そして、このビラ。まさか、あの男が関係しているっていうの?」
あの男とは恐らく、花島のこと。
母親を侮辱した男がまだ生きているなどにわかに信じ難い。
シルフはまるで茶番に付き合うかのように。
「面白いじゃない! 私たちもゴーレムの城へ向かうわよ! 兵を集めなさい!」
「___はっ!」
シルフの命を受け、部屋を後にする兵。
「セバス、あなたも支度をしなさい」
「シルフ様... ...。まさか、あの男が関係しているのでしょうか?」
「さあね。行ってみないと分からないわ」
「差し出がましいようで申し上げづらいのですが、あのような男にはもう関わらない方が良いかと... ...」
シルフを心配して、セバスは忠告をする。
「そうかもね... ...」
シルフは目を細めて、か細い声で返答した。
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