第10話お母さん! 双子の魔女登場!


 月明かりが老婆を咥えたクマのような生物を照らす。

 クマは相当、おなかが空いているのだろうか、口からダラダラと涎を垂らし、今にも老婆を丸呑みにしそうだ。


 体長は大きく花道くらいか?

 いやいや、今は四つん這いになっているが、立ち上がってお決まりのグリズリーポーズを決めれば2m以上ありそう。


 野生の勘というものがなくてもこいつがこのゴーレムの森を支配するボスのような存在という事は分かる。

 ボスでなくても森で絶対に会いたくない生物ベスト3に食い込むほどの実力者に違いない。


 クマの圧倒的な威圧感に「ふえ~」とロリっ子のように尻もちをついて震えているとクマは相当なロリコン属性なのか、咥えている老婆を雑に放り投げ、こちらに近づいてくる。


 もうだめだ... ...。

 今までの楽しかった思い出が走馬灯のように流れ、恐怖でおしっこも漏らした。

 この世界に来て既に二回目のおもらし。

 でも、ここで打ち止め、そう、俺はもう食われてしまうのだから。


 クリスチャンではないが、何となく思いついた神に祈る方法がアーメンしかなかったので、胸の前に十字を切って上を向くと、空から白い花柄レースのパンティーを穿いた女の子が降って来た。


 え!? まさか神様!?

 なに!? アーメンってガチで効くおまじないなの!?

 と俺は半ば興奮。


 スカートがふわりとめくれ、ほんのり甘い香りがあたりに漂う。

 ゴーレム幼女様は風呂に滅多に入らないので女の子っぽい匂いを嗅いだのは久しぶり。

 だが、神様が舞い降りても状況は最悪。

死ぬ前にもっとこの良い匂いを吸っておこうと思い、大きく深呼吸をし、その場の空気を吸い込んだ。


「やー! 青年! 大丈夫?」


「だ、大丈夫じゃないです!」


 深呼吸の途中に声をかけられたのでむせる。

 何より驚いたのは地声のキーの高さ。

 電車の非常ブレーキ音、黒板を爪で引っかいた音に酷似していて、すごい耳障りな声。


「はっはっは! ごめんね!」


「あなたこそ、大丈夫なんですか?」


「大丈夫! 大丈夫!」


 白いレースのパンツの女の子は持っていたトイレの詰まりを直すときに使う棒のような物を持ち、興奮気味にこちらに近づいてくるクマに向かって棒を向けた。


「そんな物で戦うのか!? お遊戯じゃないんだぞ! いや、お遊戯でもそんな汚い棒向けるなよ!」


 棒を向けられた事で完全にスイッチの入ったクマは大きな巨体を揺らしながら一心不乱でこちらに駆けてきて、俺は恐怖で目を閉じた。


 向かって来るクマに対し、女の子は低い声でボソボソと呪文のようなものを唱え。


「レンダム! クエント!」

 

 女の子が大きな声でサッカー選手のような名前を口にすると辺りが一瞬赤く光り、すぐに消えた。

 目を閉じてても分かるくらい強烈な光。

 目を開けていたら失明していたかも。

 そういえば、クマの激しい息づかいや足音は光が発光してから聞こえない。

 恐る恐る、目を開けてみると、先程の女の子が目を手で覆ってしゃがみ込んでいる。


「どうしたんです!? 大丈夫ですか!?」


「目... ...。目が... ...」


「えっ? さっきの光でやられたんですか?」


「うん。目閉じるの忘れてて... ...」


 何この子... ...。

 アホっぽい... ...。


「そういえば、さっきの光は何だったんでしょうか?」


「あたしが出した魔法だよ。うへへ」


 うへへ。じゃないよ全く。

 こいつはどうしようもないおっちょこちょいだと呆れた。

 自分で出した魔法でしょうが... ...。


 そういえば、クマはどうしたんだろう?

 と思い正面を見るとそこには傍若無人な振る舞いを見せる獣の姿はなく、可愛らしい子熊の姿だけがあった。


「くう~。くう~」


 と小刻みに体を震わせながら小熊は弱弱しい声で鳴いている。

 この女の子のあまりのバカっぷりに聞き流してしまっていたが、そういえば、この女の子は『魔法を出した』と言っていた。


 魔法!?


 そうか、この子もゴーレム幼女様のように魔法が使えるのか... ...。

 そう思うと無性にへりくだった方が良いかもしれないという感覚になってくる。強い者には腹を見せるアンダーザドッグ精神。


 フリフリの女の子らしい服装をしている赤毛の少女。

 赤い大きな瞳とムチムチとした足と胸が特徴的なこの女の子を敬愛を込めて『魔法少女』と呼称しよう。


 そういえば、あの老婆は大丈夫だろうか?

 未だに目を抑えてしゃがみ込む魔法少女を横目にクマに放り投げられた老婆の様子を確認すると、ぐったりとして、ピクリとも動かない様子。


 老婆に近づき安否を確認しようと思い、老婆の顔をのぞき込むと目がパチっと勢いよく開き、スッと立ち上がった。

 その様子はまるでアンデッドそのもの。


「お・お婆ちゃん! 大丈夫!?」


「大丈夫! 大丈夫!」


 ん?

 この耳障りのする高いキーの地声は魔法少女と同じ声のトーンではないか?

 魔法少女を見るが、まだ、うずくまっている。

 あれ?

 おかしいな聞き間違いか?


 あー。

 なるほど、さっきのやかましい声が耳に残っていたんだな... ...。

 と俺は素晴らしい解釈。


「ミーレ! 早く立ちな!」


「レミー!? どこにいるの!?」


「目の前だよ! あんた、また、魔法使うときに目を閉じるの忘れたでしょ!?」


「ごめん! 忘れた~!」


「食料も調達できたし、帰るよ!」


「目が見えないし、立てないよ~! 立ち上がらせて~」


「しょうがないね... ...」


 老婆は魔法少女の事を呆れた様子で見て、肩を貸す。

 それにしても、二人とも同じ声でとても耳障りだ。

 それをダブルで聞かせられるなんて拷問そのもの。

 なんか、高い声を聞いてるとそれが段々とあえぎ声に聞こえてくるし。

 それにしても、何でこんなに声が似ているんだ!?

 そして、こいつらはどんな関係性? 


 魔法少女の目が見開くタイミングを待って、俺は二人に問いを投げかける。


「あなたちは何者何ですか?」


「魔女だよ!」

「魔女だよ!」

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