第11話お母さん! 魔女宅は快適!

 ____ゴーレムの森 魔女の家____


 森を一時間ほど歩くと魔法少女と婆が住む家にたどり着く。

 レンガが積み上げられた小さな家には煙突がついており、プカプカと白い煙が上がっている。

 家の中はテーブルと椅子。

 壁には見たことがない奇妙な生物が剝製となって吊るされている。恐らく、これは非常食なのだろう。

 

 魔法少女と婆の話を聞くともう、数百年もここに暮らしているらしい。

 二人は双子だと言い張るのだが、どう見ても年齢が違いすぎる。正に孫と老婆。

 魔法少女は赤毛で赤い瞳で肌がスベスベで綺麗な面立ちをしており、態度や口調、容姿は10代そのもの。

 意味もなくハシャぐ姿に多少、イラッとするがそれも愛嬌か。


 一方、問題はこの老婆。

 白髪で天然パーマなのか髪がうねうねとして、口元にはガッツリとほうれい線が入っている。

 指はカッパえびせんのようで食欲をそそり、魔法少女の身長が170㎝くらいに対し、魔法婆は130㎝くらいでゴーレム幼女様より少し高い。

 語尾に「じゃて」とか使わないだけで、後は婆感が凄い。

 

「ほれ、これ食べな!」


「何ですか? これは? おいしそうな匂いだ... ...」


 魔法婆が調理場のような所で何かをしていると思ったらこれを作っていたのか... ...。

 しかし、この黒い塊は一体... ...。


「さっきのクマの丸焼きだよ」


「... ...」


「いっただきまーす!!!」


 どこからともなく現れた魔法少女は木製フォークをその黒い塊に刺し、豪快に口に運ぶ。


「かあ~! 小熊うまーい!!!」


 くっ! 美味そうに食うじゃねえか!

 なら俺も!

 魔法婆から渡されたフォークを駆使し、俺も黒い塊を口にする。


「______!? 小熊うめえ!!!」


 食べられる為に生まれた牛や豚のそれとは一線を画す野性味溢れる歯応え。

 木の実も食べているのか、ほんのりとクルミの香りが口の中に広がり、クマ独特の臭みを完全に消している。

 良質な赤みのたんぱく源を摂取した我が心臓はドクドクと小刻みに脈打ち、喉を通った後に自然と深い息を吐いた。

 

 結論。

 小熊は超美味い!

 


 □ □ □



「ありがとうベアー。俺は君を忘れない... ...」


 感謝。

 俺は自然と平らげたクマの骨に向かって合掌。

 この歳で自然界の真理へと到達したかと思った。


「そういえば、君、なんでこの森にいたの? ここは、人間は近寄らない場所だよ」


 大きくなったお腹をポンポンと叩きながら魔法少女が俺に問う。

 張り出すお腹と胸がアンバランスで極エロい!


「そうだねえ... ...。私も気になってた」


「まあ、助けて貰った恩もあるからなあ... ...」


 俺は一連の出来事を魔法少女と魔法婆に伝えた。


 ホワイトシーフ王国の王女にここに連れてこられた事、ゴーレム幼女と生活していた事、そして、元いた世界の事。


 二人は異世界の事を聞いて黙り込んでしまった。

 驚いてしまったのだろう。まあ、無理もない。信じて貰えないのは覚悟している。


 しばらくして、魔法婆の方が口を開く。


「おめえ、頭でもブッたんか?」


「は? 本当だって!」


「だってねえ... ...」


 俺の話を聞いて不審に思ったのか、魔法少女と魔法婆は目を合わせた。

 これは、絶対に痛い奴だと思っている目。

 しかし、この視線は既に高校生の時に攻略済み。

 別にそんな目をされたからって気まずい感じにはならないぞ!

 それよりも、腹が減ったな... ...。


「それよりもさあ、他にもっと飯ないの?」


「は? さっき食べたでしょ?」


「いや、全然足りない」


「足りないじゃないよ! 危ないところを助けてあげたのにさ!」


「それには、感謝してるけど、腹も減ったからさ! 無いなら寝るわ」


「寝る!? 泊まって良いって言ってないけど!?」


「いや、でも、外はおっかない獣たくさんいるし、朝まではいさせてよ!」


「朝までだからね! 朝になったら出て行ってよね!」


「ああ!!! 分かってるって!」


 それから、俺は一週間経ってもこの家にいた。


 

 □ □ □



「ふい~。もう、食べれないよ... ...」


 心地良い夢を見ていると後ろから喧嘩キックを俺にお見舞いする魔法少女。


「あんた! 朝になったら帰るって言って一週間もいるけど!? いつになったら、帰るの!?」


 振り返ると腰に手を当て、激怒する魔法少女の姿。

 スカートの中から白いレースのパンツが見えるが、もう、これは見慣れた光景でムラムラもどぴゅどぴゅもしない。


「いや、だってさ、外寒いし。それに、次の日の朝とは言ってないし」


「屁理屈言わないでよ! このやりとり何回目!? いい加減出て行って!」


「別に俺がいても困る事ないでしょ? 俺、基本、喋らないし... ...」


「もう、いるってだけでイライラするのよ! お風呂入る時や着替えの時に気を遣うし!」


「別に気遣わないでいいよ。俺、気を遣われるの嫌いだし」


「あんたは少しくらい気を遣いなさいよ!」


 ああ言えばこう言う俺に対し、魔法少女は泣き出してしまった。

 これだから、女ってやつは自分の思い通りにならないとすぐに泣きだす生き物だ。

 本当に腹が立つ。

 一発ぶん殴ってやろうかと思い、立ち上がると近くで見ていた魔法婆が口を開いた。


「まあまあ、ミーレ落ち着きなさいよ。彼も身寄りがないんだ」


「レミー... ...。そうだけど... ...」


 魔法婆の言葉で少し落ち着きを取り戻す魔法少女。

 俺もその姿を見て、拳を下げる。


「花島くん、一つ提案があるんだけど?」


「ん? どうしたの婆ちゃん?」


「婆ちゃんじゃないよ!」


「で、提案って?」


「あたしらが魔法で前の飼い主の家に飛ばしてあげるから、あたしらの家から出ていくってのはどうだい?」


「レミー! ナイスアイディア!」


「んー? いや、魔法で飛ぶって何かおっかねえから嫌だな」


「あなたね! レミーが色々と考えてあげてるのに何よそれ!」


「ミーレ! 落ち着きなさい!!!」


 魔法少女は俺の態度が気に入らず、食ってかかってきたのだが、魔法婆に止められて黙ってしまった。

 俺の事で揉めてて確かに悪いな。という気持ちがない訳ではない。

 ただ、俺としてもこの安住の地を離れるわけにはいかない。


 外に出れば俺は弱い。

 猛獣どものエサにされてしまう可能性が高く、魔法少女と魔法婆には悪いがここに居させてもらうのが一番なのだ。


 また、仮にゴーレム幼女様の所に戻って、許してくれるとは限らない。

 逆鱗に触れて、石にされるのはまっぴらごめんだ。


「花島君、元の飼い主のところに戻るのが嫌なの?」


 震える俺を見て、何かを察した魔法婆は優しく問う。


「嫌だよ。寝てたら掃除や洗濯しろって言われるし... ...」


「ウチでは掃除も洗濯もせずに、ただ、ご飯食べてるだけじゃない!!」


「ミーレ!!! 黙ってなさい!」


「レミー... ...。ごめん」


 いちいち、魔法少女が俺と魔法婆の間に入ってきてウザイ!

 人の話も聞けない奴が人を怒るな!

 後でこの魔法少女にはお仕置きが必要だな。


「それに、たぶん、今帰ったら、石にされるから」


「石にされるのは怖いわ... ...」


「だろ? だから、帰りたくないんだよ」


 魔法婆は話が早い。

 流石、伊達に歳を食ってはない。


「石にされなければ帰っても良いのかい?」


「んー、まあ、いいかな。掃除や洗濯はめんどくさいけど」


「じゃあ、あたしらが前の飼い主に石にしないように言ってあげるよ」


「でも、あいつ、強いよ? ゴーレムだよ? この森にあいつの名前付いてるよ」


 魔法婆は俺の発言を鼻で「ふふん」と笑い、自信に満ちた顔で俺を見やる。


「あたしらは魔女だよ? この森の裏番長だよ」


 裏番長?

 何それ。カッコイイ。


「石にならないならいいけど... ...」


「そうかい! じゃあ、善は急げだね! いくよ! ミーレ!」


「はいよ! レミー!」


 シュンとしていた魔法少女は魔法婆の掛け声で水を得た魚のように一気に元気を取り戻し、二人は便所の詰まりを直す棒のようなものを天高く掲げ呪文を唱え始める。


「______del piello!!!」


 元イタリア代表サッカー選手の名前のような呪文を唱えると部屋の中は光に包まれた。

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