白くて丸くて

第1話手脚

まだ暗い時間に、とある違和感で目がさめると私はひっきりなしに考えていた。


というよりも私の頭の中が、今自分がどうなっているのか理解するために忙しく動いているという方が正しい。


確かに私は昨日の夜、いつもの部屋で寝付いた。


常に眠りは部屋の外からの喧騒から解放してくれる。


ところが今日は部屋が狭い。

いつもの様に隅に蹲れない。


「ねえ、これどういう事なの?」


ついに思考でも間に合わず鳴き声…声をあげてはっとした。


度々食事を持ってきてくれる人間と同じ、つるつるとした腕が、脚がある。


つるつるとしていて、前みたいに軽やかではなく少しぽってりともしていて、少し重い。


いつも外を駆けていく小さい人間も、沢山の御飯を抱えてくるおばさんも、何やら黒い重そうな物を持って近づいてくる人間も、いつもこんなに動かしにくいもので動いているのかと思わず感心してしまう。


暫くもがいていると、そのなぜこうなったのかわからないけど急に生えてきた人間の手足の使い方がわかってきた。


まず、脚は畳めることがわかった。

それを腕で留めて、壁に寄りかかって、ふわふわとした胸に顔を埋めれば良いのである。




「何ですか貴女っ!!」

「あ…いつも御飯くれる」


この人間は私にいつも優しく話しかけてなでなでしながら御飯をくれる筈だけど、今日はこの生えてきた手足のせいなのか刺々しい。


「あのね、おばさん!

今日ね、何故か手足が生えてきたし喋れるようになったの!」


これでこの人間は納得して落ち着く筈。

しかし私が敵かのような態度は収まるどころか余計強くなった。


「ふざけないでちょうだい!

スバールバルライチョウはどこ?!

まだ子供に見えるけど何故こんな時間にそんな格好で無断で此処にいるの?!

警察呼びますよ?!」


「まって、おばさん…もしかして本当に私がわからない…?」


そこでまた、暗くなると光る物をぶら下げて偶に此方を覗き込んでくる人間が近づいてきた。


最近知ったのだが、あの人間はお巡りさんというらしい。


「お巡りさん!スバールバルライチョウの部屋に不審者です!

子供で、変な格好で、ついでにスバールバルライチョウがいません!」


あの人間なら私の味方かも知れないという期待も虚しく、私をいつになく嫌そうに見る。


私にいつも優しく話しかけてくれて、

なでなでしてくれて、

御飯をくれてたのに、

手足が生えてだけなのに、

喋っただけなのに、

私は此処では敵のように扱われる。


青く滲み始めていた上野の空の下、サイレンが近づいてきて、いつも偶に見かけていた赤色灯の光が、その時は恐ろしい物に見えた。


そして恐らく、その時私は生まれて始めて外の世界に出た。

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白くて丸くて @Bird_fish

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