第九話 ふたつの剣
中庭の南側。出口にはすでに誰かが立っていた。
「杖を使わなかったようですね、彼は」
そういえば
「もしかして、使われたらヤバかったのか?」
「コフテリアスは優しい人ですからね」
自分は違う、と言いたいんだな、カンター。
頭に白いものが混じった年配男性は、微笑みを湛えている。
「見逃してくれたり?」
「しませんよ。私は、ね」
敵意は感じない。威圧感もない。それが逆に不気味だ。
「
「面白いことを言いますね」
ダメだな。
当然ながら、姿を消しているイーは何も言わない。おれがやるしかない。
すこしずつ、辺りは明るくなってきた。
おれは腰の棒を構える。
続いて、カンターも
「
完全に日が昇る前に
棒の動きを読み防御に回ったカンター。おれは蹴った。
「この技は――」
続いて左腕で殴る、と見せかけて、右手の棒を振るった。
「知らないだろう? イー直伝、
剣を受けるわけにはいかない。確実に棒で防ぐ。
練習用の武器は、かけられた
「ふっ」
カンターは笑っていた。おれの
黒幕の疑いがある三人目は崩れ去り、壁に背をつけた。
手から離れた
「強くなりましたね。モー」
「懐かしいな。その呼び方。何年ぶりだ?」
すこしだけ顔を出したお日様が、二人を照らし始める。
「あなたが
「そうだったのか? そうかもしれないな」
カンターは父親のような存在だった。
愛称で呼ばれなくなった頃のおれは、
「すでにあのときから、一人前でしたよ。あなたは」
「寂しかったぜ。もう、子供のように思ってくれなくなったのかな、って」
なんで、こんなすぐ言えることを、伝えられなかったんだろう。
「私は不器用で。一人の人間として向き合わないと、
「ああ、知ってる」
「さあ、その
壁に背をつけて座るカンターは、
「分かってる。最初から、分かってた」
痛みは与えない。これはイミテーションだ。
「カンターはここで死んだ。そう思って、周りの人に優しくしてくれ」
「どこかで聞いたセリフですね」
「一度言ってみたかったんだ。これ」
おれは笑った。なぜか
「私に構わず、進んでください」
「本気で殴ったから、治さないとまずいだろ」
「早く。イーもいるのでしょう?」
やっぱり気付かれていたのか。瞬間移動できることに。
「出てこいよ。傷を治してさっさといくぞ」
「その前に
声がして、すぐに白い服の
言われたとおり顔を拭くと、彼女の顔がよく見えた。
「魔法、使えばすぐだろ?」
「極力使うな、って言ったのは誰でしたっけ?」
そうだった。すぐに城を出るし、もういいだろう。
「おれだ。片付いたし、好きにしてくれ」
イーには、集中・
気付いたときには傷が治っていた。
立ち上がり、イーのほうを向くカンター。
「モーを頼みます」
「ええ、まあ、それなりにね」
「それじゃあ、元気でな」
日の光を浴びるおれとイーは、城下町を目指し歩き出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます