第八話 黒幕との対峙

 どうやら、黒幕は一枚岩ではないらしい。

 イーを狙う理由も、それぞれ別。相棒あいぼうの言葉は信頼できる情報だ。

 早朝。おれは、普段着に着替えた。部屋に手紙を残し、騎士団きしだんりょうを出る。

 これで後戻りはできない。

 無意識に、腰に下げた棒を握り締めていた。けんの練習用の道具。

「こんな時間に何をしている」

 辺りはまだ薄暗い。見回りだと言っても無駄だ。

「実は、ここにマスターキーがありまして」

 セキュリティを無効にできる道具。複数人で厳重に管理されている。

 もちろん、おれの手にあるのはイーの仕業。

「紛失したと思ったら、貴様か。まあいい。拾ったことにしてやる」

 エンネン警備長はたまに優しい。

「すでに反省文は書いてあるので、あとで確認してください」

「仕方のないやつだな」

「それじゃ。ありがとうございました」

 頭を下げたおれは、足早にその場を去った。

 魔力まりょくがほとんどないエンネンに追跡はできないはず。

 まずは一人目。あと二人。


 北の塔に、まだ門番はいない。

 内側から扉が開いた。

結界けっかいはそのままにしてあるわ」

「よし。魔法まほうは極力使うなよ。おれに任せろ」

 意思を伝えてすぐ、白い服のイーが消えた。気配もない

「城を出るまではこれでいきましょう」

「ひょっとして、おれの着替えを覗いているんじゃないか? その技で」

「着替えは見てないわよ」

「冗談だ。マスターキーを使ったことになっている。扉は開け放題だぜ」

 おれは、姿を消したイーとともに南へ向かう。中庭へ続く簡素かんそな木の扉が開いた。


「我に弓引くか、少年」

 中庭で待ち伏せされていた。隠しておいた弓矢にも気付かれているだろうな。

「できれば、穏便おんびんに済ませたいのですが」

戯言ざれごとを。敵意を抑える訓練を受けていないと見える」

 コフテリアス大臣は鋭いな。さすがは魔導士まどうし。伸ばしたしろひげ伊達だてじゃない。

「イーを解放してください」

「あれは、民を幸せにするための絶大なる力。魔力まりょくを持たぬ者も等しくな」

 幸せ。カンターも言っていた。だが、こいつは。

「そのために、イーが不幸になっても?」

「やむを得ぬ」

 おれは腰の棒を持ち、相手に向けて構えた。

犠牲ぎせいにさせない」

罪人ざいにんほだされるとは、おろかな」

 相手の集中が見えた。詠唱えいしょうはやい。

 斜めに駆け出したおれは、すぐにつまずいた。

 狙われたことを確認して体勢を立て直す。魔法まほうけて、右側から一直線に向かう。

「もらった!」

 おれの声に反応して、コフテリアスが左手を構える。左右の手で別の魔法まほうを使っていた。

 軽く横にんで回避。その手はもう知っている。

「弟子に対魔導士用たいまどうしようの訓練はしていない、と言っていたでは――」

一文字斬いちもんじざん

 両手で構えた横向きの棒がしなる。うなれ! おれの筋肉。

 衝撃吸収魔法しょうげききゅうしゅうまほうのキャパシティを超えた分が相手を襲った。

 花壇に激突して、大きな音とともに石が散乱する。

 城の本体と違って、一つの岩でできていないことを思い出した。

 二人目。あと一人。


「生きてるか?」

「心配なら手加減すればいいのに」

 イーの声がして、壊れた花壇が元に戻った。

 コフテリアスの傷も治っている。問題なさそうだ。

「なんで、ってないのに、ざんなの?」

「なんで、って、かたどおりだから。だろ?」

 何を言っているんだ。

くずしてもいいのよ」

 おれは稲妻いなずまのような衝撃を受けた。

 イーと対魔導士用たいまどうしようの特訓をしていたとき、かたにない動きをされていた。

 魔法まほうへの対処で頭がいっぱいだった。

 あのとき、体術たいじゅつを使われていたら。

「そうか。ようやく分かった」

「で、さっきの技はなんて言うの?」

全力横殴ぜんりょくよこなぐり」

「予想外だわ」

 あきれたような声が聞こえた。

「だろ? って、喋っている場合じゃない。先を急ぐぞ」

 すこしだけ、笑い声も聞こえたような気がした。


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