第四話 城下町の日常

 雷鳴らいめいとどろく黒い台地。

 テーブルと椅子が一瞬で用意される。

「食事は、もっと楽しくやろうぜ」

「食べなくてもいいのよ、別に」

 赤い雲の下、おれとイーは昼食を食べていた。

 食事は気付いたら並んでいた。魔法まほうってすごいな。

「美味い。毎日作ってくれよ」

「もう。レシピどおりだから、自分で作れば?」

 食堂の料理はレシピどおりじゃないのか?

 褒められてちょっと嬉しそうにしている、白い服の少女。珍しい表情だ。


 食後の雑談。魔王まおう領域りょういきの説明を受けた。

 遺跡いせき由来ゆらいとかなんとかも話された。

 色々話して時間がってから、イーに歯を綺麗にしてもらった。

 水の勢いで汚れを取って瞬間移動で次の水を、の繰り返し。

 高度すぎてよく分からない。楽しそうだからいいか。

 特訓とっくんが終わって、ヴァトカインに戻った二人。イーの力で瞬間移動。

「暑っ。城下町の見回りしてくる」

「ふーん」

 言葉はそっけないが、手を振っている少女。

 おれは気合いを入れて塔の螺旋階段らせんかいだんを見つめた。


「やはり、あれは制御せいぎょできぬか」

「そのようですね」

防壁ぼうへきは強化済みだ。万が一、おりが破られたとしても」

「我らの手中しゅちゅう、か」

「私の弟子が上手くやってくれることに期待しましょう」

「ほかにも手は打っておくべきだな」


「なるほどね。次の手は……」

 上からの声が遠くなる。塔の入り口を開けてもらって、普段着のおれは南へ向かった。

 城をはさむように東と北と西に塔があって、南には城下町がある。

 城のように一つの岩をくり抜いた建物はない。木造の民家が並ぶ。

 たくさんの木がなかったらと思うと恐ろしい。

 植えられたものより、元々生えている木のほうが多い。木陰こかげすずむ。

「今日は遅いね、兄ちゃん」

 少女に話しかけられた。イーより年下で、名前はクルホ。

 魔力まりょくを持たない者は同じ場所で育つ。騎士きしになる前の仲間なかまだ。

「ああ、やっぱり動くなら朝だよな。身体鍛からだきたえろよ」

「そうだね、朝にね」

 逃げられたか。まあ、子供は遊ばないと。しかし平和だ。


「フられちゃった?」

 知らない女性に声をかけられた。馴れ馴れしいな。人のことは言えないが。

「ああ、やっぱり魔力まりょくがないとモテないんだ」

「へぇ。ここで何してるの?」

 それはこっちのセリフだ。歳はたぶんおれより上。妙齢みょうれいの美人が何をしている。

 というか、なぜ微笑ほほえみを見せるのか。

「町の平和を守っている。さっきのは、仲間ってことにしておく」

「変な人」

「よく言われる」

けんの練習してるんだね」

 腰の棒を見つめる、長い髪の女性。間違ってはいないから肯定しよう。

「ああ。弓も練習してるけど、そっちはまだまだってとこだな」


「立ち話も疲れるでしょ。あたしの家に来ない?」

「まだ名前も聞いてないぞ」

 立っているから疲れたわけじゃなくて、イーとの特訓で疲れたとは言えない。

「そうだったね。あたしは、ピスチャ」

「おれは……モー。最近はそう呼ばれている」

 本名を言わないほうがいい気がする。この女性はどうも怪しい。

「やっぱり、変な人」

「だよな」

 木陰こかげすずむ二人。おれは特に話題がない。

「平和だね」

「でかい鳥のモンスターが倒されてから、静かになったな」

「それで、騎士きしは暇してる、と」

「そうそう。おれが弓で倒したかったぜ。あいつならきっと一瞬だな」

「弓の凄い人?」

「いや、魔法まほうが……あんまり言うと怒られるな」

 笑顔をやさないピスチャ。なんなんだ、一体。

 見回りだと理由をつけて、おれはその場を後にした。


 次の日。早朝の城下町。

 すずしいあいだにさっさと見回りを済ませて、塔に向かいたい。

 こういうときに限って、何かさわがしい。

「どうした? 道の真ん中に集まって」

怪盗かいとうが出たんだよ」

「盗まれたのは、たいしたものじゃないらしいけど」

「範囲が広いから怖いねって話さ」

 被害のあった場所を地図に記してもらった。

 確かに範囲が広い。別の場所で話を聞いているうちに、日差しが強くなってきた。

 もういいだろう。おれは塔に向かうぞ!

 考えるのは相棒あいぼうの役目だ。


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