5 美坊主と美少女
翌朝、マンションまで先輩を迎えに行った僕は、その姿に度肝を抜かれた。
「先輩、なんでそんな格好してるんですかっ?」
「どや? ストイックで気品があって、カッコええやろ。萌えるやろ」
親指と人差し指をピストルみたいに伸ばして顎の下に当て、キラーンポーズを決めた先輩は、なんとお坊さんの格好をしている。
黒い
いつもラフな髪をオールバックにしたことで、ストイックどころかアダルトな色香がさらに増してる気がするが……。
ちなみに僕には、僧侶萌えなる性癖はない。
「ホンマはもっと、キラキラした
「誰から借りたんです?」
「知り合いの坊さんや」
そういってほくそ笑む先輩には、やっぱり気品も足りない気がする。
「ほな行くでっ」
先輩に促され、愛車の黒いジムニーに乗り込んだ僕たちは、彼女が住む国分寺のアパートを目指した。
「住所だとこの辺ですよね」
僕は道路脇に車を停め、地図を確認する。
金神の噂が囁かれるなんて、武蔵野の面影が残る緑豊かな田園地帯かと思ったけど、どこにでもありそうな普通の住宅街だ。
新しい家も多いし、本当にそんな噂あるのか?
とか思っていたら、遠くでヤツが手を振るのが見えた。
車を進めると、イラッとする笑みを満面に浮かべ、こちらへ近付いてくる。
「今日はサンキュー。オレは、いい友達を持って幸せだ」
「友達ちげーし」
「先輩さんもどうもです。うわぁ、カッコいいですねぇ、それ」
車から下りた先輩に、ヤツが揉み手しながら擦り寄っていくと、先輩も満更でもなさそうにニンマリする。
「報酬、忘れんといてな」
「勿論ですっ。あっ、シオ。来てくれたよ」
こんな男と付き合うなんて、どんなチャラい女かと思ったけど、ヤツに手招きされ現れたのは、大きな目が印象的な
黒髪のボブで、化粧気はないが肌目細かい透き通るような肌をしており、白地に黒い縦線が入った涼しげなトップスに、軽やかなネイビーのガウチョパンツというナチュラルなスタイルは、非常に好感が持てる。
助けてあげたいという意欲が、俄然湧いてきた。
多分、先輩もそうなのだろう。
一歩前に出て、
「どうも。
先輩、それ、さっき車で読んでたマンガの主人公の名前ですよね。
お坊さんでもなんでもない。
本当いい加減だな。
いつか訴えられても知らないから。
「
先輩以上に丁寧にお辞儀した彼女が住んでいるのは、白い二階建てのアパートだ。
築30年は経つそうだけど、綺麗にリノベーションされていて、古くさい感じは全くしない。
金神に祟られたという
二階の真ん中にある彼女の部屋はロフト付きの1Kで、今はカーテンが閉まっていて薄暗いが、きちんと片付けられているし、悪い気など微塵も感じられない。
別段、何かあるようには思えないけど、これも彼女のためと、僕は先輩に命じられるまま、ヤツとともにテーブルなどを退かして簡易の祭壇を組み、その間に先輩は、彼女に質問をする。
「この部屋におって何ぞ、気ぃなったことはありました?」
「えっと、ピシッて何か変な音がしたりするんです」
「ほう。
「食器がカタカタ震えたりとか……」
「それはいつから?」
「多分、お隣のお家のご家族が亡くなってから……」
「なるほど。さぞ怖かったでしょう。でも、大丈夫。祟りも不安も、すべて私が取り除いて差し上げますから。ほな、さっそく始めましょか」
いつになく力強く、先輩が儀式の開始を宣言した。
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