3 霊能者と依頼者

「はぁっ?」


 思いの外大きな声が出てしまい、慌てて店内を見回した。

 僕らの他には、学生らしき客が二組、それと会社員っぽい男が一人いるけど、よかった、注目はされてないみたいだ。

 僕は安堵し、それから目の前の友人、じゃなかった、知人に尋ねる。


「それ、僕にいったの?」

「当たり前だろ。キミしかいないじゃな……って、なんかの?」


 彼は、不安げに周囲をうかがった。

 コイツは僕が、だと知ってるから。


「いないけど。そういうコトなら、僕じゃなく、うちの先生に頼めばいいだろ。なんたって、日本屈指の霊能者なんだし」


 そして僕は、先生の弟子で、ただのバイトだ。

 霊感はあるが、先生の足元にも及ばない。


「だって、金取るだろ」

「そりゃあ商売でやってるわけだし取るだろうけど、守銭奴じゃないから、学割くらいしてくれると思うぞ」


 僕が助けて貰ったときも、出世払いでいいわよっていってくれたし。


「それだって、かなりの額だろ。無理無理」

「じゃあ、せめて先輩に相談すれば、アドバイスくらい――」

「先輩って、こないだ会った、目力の強い長身の色男?」

「まあ、僕の職場に先輩は、一人しかいないけど」


 そういえば、以前、先輩と依頼先へ向かう途中、偶然コイツに会ったことがあったっけ。


「オレ、あのヒト苦手だなぁ。だってオレのこと、すごくコワイ顔で睨み付けてくるんだもん。きっと、オレたちの仲良しぶりが、面白くないんだよ」

「はぁっ?」


 また大きな声が出てしまったが、今はそれどころじゃない。

 これはきっちり訂正しとかないと。


「僕、これまで一度も、オマエと仲良くした覚えないからっ。先輩が睨むのも、そんなキモい理由じゃないし」

「じゃあ、なんで?」

「オマエがチャラチャラ、女の子と遊んでんのが気に食わないんだろ」


 あのときも女連れだったし。

 しかも、三人。


「ええっ。どー見ても、向こうのが遊び人だろ」

「……先輩には怖ーい保護者がいるから、女遊びなんて、絶対出来ないんだよ。とにかく、先輩に相談する方がいいって。僕なんかよりずっと頼りになるから。その方がオマエも安心だろ」


 急に彼が、ぎゅっと僕の手を掴んできた。


「ありがとう。オレのこと、そんなに心配してくれるなんて」

「オマエじゃなく、彼女が心配なのっ。つーか、バーガー潰れるから放せよ」


 乱暴に振り払うと、彼は楽しげに笑った。


「相変わらずツンデレだなぁ、キミは」

「いつデレたっ」


 あーもう、コイツといると、性格がどんどん悪くなってくような気がする。

 げんなりしながら、僕はバーガーにかぶり付いた。

 彼も食べ始めると、テーブルの端で彼のスマホが、チンと音を立てる。


「シオだ」

「何?」

「一人じゃ怖いから、泊まってくれないかって。もちOKだよっと」


 彼はすぐに返信した。

 こんなチャラ男に頼るなんて、よっぽど切羽詰まってんだな。


「じゃあ、オマエ、早く行ってやれよ。僕は先輩に話してみるから。助けて貰えそうなら連絡する」

「ありがとう。あ、コレ食っていいから。それじゃあ」


 食べかけのバーガーを一気に頬張りコーヒーで飲み下すと、トレイごとポテトを僕に押し付け、彼は店を飛び出していく。

 一人残された僕は、盛大に溜息を漏らした。


 しかし、どうしよう。

 先輩に相談すればとか気軽にいっちゃったけど、ちゃんと聞いてくれるかな。

 まあ、困ってるのは女の子だから、親身になってくれるかもしれないけど。


 僕は時計を見る。

 五時十七分。

 先輩、まだ事務所にいるだろうか。

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