異種型家族日常日記
あめんぼ
第1話 癒し系
私の家族は少々変わっているのかもしれない。
学校から帰宅して、ただいまも言えぬ前に響く怒鳴り声に正直(またか…)という想いだった。
「こらぁ! 廊下で服を脱ぐなって何度言ったら覚えるの!」
瞬間走る稲妻をバックに、家に響く声。
うちの母はよく、雷を落とす。
これは比喩でも何でもなく文字通り、雲一つなかった青空に暗雲呼び寄せ雷を落とすのだ。そして稲妻は近所の工場に立つ、避雷針へとジャストミート。そんな母の怒りへと火に油ならぬ晴天に稲妻走らせる存在が、
「とか言いつつも、なんだかんだ可愛い娘の世話やくのが楽しいくせにぃ。」
母の怒りも雷も何のその、茶の間のテレビ前を陣取りニヤニヤと振り返る仔犬が一匹。
「あんた、そろそろ年頃なんだからすっぽんぽんでテレビ見るのやめなさい…。」
座布団の上でころりと寝返る仔犬に母は呆れて、脱ぎ捨てられた制服を回収しに廊下へと戻り玄関で立ちっぱなしだった私に気づいたようだった。
「あら、お姉ちゃんおかえりなさい。もうっ、お姉ちゃんからもあの子にいい加減、家の中でも服着る様に言ってちょうだい。」
「ただいま、そもそも服着る前に人型保つように言うべきじゃない?あのままだったら着る服、無いでしょ。」
人とは違ったものも認められた今の世となったといっても、やはり旧人類に新人類が無条件に受け入れられるかといえば、そうではないのだ。どこか遠巻きに見られる新人類、大きく新人類と分けられてはいるもののその人種は様々で目の前の仔犬の様に完全変化型の『妖型』や見た目には出ない『異能型』と分けられれ細かく分けるなら目の前の仔犬も私自身も『妖異能タイプ』というハイブリッド型だったりするのだが、それはまたいつかどこかで。
「いやいや、だって靴下とか窮屈なんだもん。外では我慢してるんだから家でくらいいいじゃんかぁ。あ、おかえりタヌちゃん。」
コロコロと居間を転がる仔犬が小憎らしく、蹴っ飛ばそうとしたことを予感したのかちょこまかと逃げ回っている。
「お前なッ…私はお姉ちゃんなんですけど。誰が、タヌちゃんだ。」
「いやだってタヌちゃん、尻尾はみ出てますけど。」
…誰にだって得意、不得意ありますもんね。仕方ないよ、人間だもの。
「私は尻尾だけよ、あんたそれ全裸じゃない。」
「ちゃんと毛皮着てるもーん。皮膚の上に毛皮着てるからセーフ!」
どうにも私の妹は人として生まれ落ちたというのに、妖型としての自身に落ち着きを持っているらしく、最低限外での活動を人型とするなら家ではこの仔犬型として過ごす時間が多い。まぁ、そんな自由気ままな仔犬ちゃんも外で人型であるのにはそれなりの理由もあったりするが。
「とりあえず、お父さんもいるんだから服着といでよ。流石に怒られるよ?」
「えー、面倒くさいなぁ…。まぁいいや、ポンちゃんご飯食べたら一緒にお風呂入ろうねー。」
「アホか、1人で入れ。」
因みに仔犬、仔犬と言ってはいるものの彼女は今年中学へと入学予定。けれども妖型は年齢ではなく異能の成長に合わせてらしく、たとえ中学卒業する頃までは数年仔犬のままだろうとの予測。
「いいじゃんかー、洗ってよぉ。タダでもふもふし放題だよぉ?」
「人で入れば済む問題でしょ、お前の毛皮に興味は無いわよ。」
「ポンちゃんも洗ってあげるからー。」
「ポンちゃん言うな、私はお姉ちゃんよ。」
「いやだって狸じゃん、たんたん狸のタヌねえちゃん。」
変な歌を作るな。
「あんたらアホなこと言ってないで、お風呂はちゃんと人で入ってよ?抜け毛が酷いんだから、あとお姉ちゃんも私関係ありませんみたいな顔してるけど真っ白い毛も詰まってましたからね。」
バレてらぁよ、流石に湯船には浸かってませんが偶には水浴びしたいんですよ。
「やっぱタヌちゃんも服嫌いじゃん。」
「私は風呂と部屋だけです、お前と一緒にすんな。」
「それにしても姉妹揃って動物になるのに、狸と犬と違うだなんて面白いわねぇ。そのせいでちょっと露出癖に目覚めちゃってるみたいだけど。」
別に目覚めてはないです、私はね。
「でもタヌちゃんは外でバレたら毛皮刈られそうだから気をつけてね?」
「刈られないし、そもそも外で全裸にならないわよ。」
まぁ実際のところ、下着だのは何故かつけてても妖姿になれるし自分の毛を織り込んであれば服を着たままの変化も出来るらしいが、感覚としてどうなるのかまでは分からない。そもそも自分の毛製の服など持っていないのが現状。
「私は可愛いから許される、可愛いから癒される。ね?ほら癒されるでしょ??」
私と母の会話を聞いていないのか、このアホ娘は。仔犬姿でコロコロと転がり始めフリフリと尻尾をぶん回す姿は可愛い…といえるのだろうか。というよりも、見慣れているため私は何とも思わないでもない。しかし母にとってはどんな姿の娘でも可愛いのか、先ほど怒っていたにもかかわらずグリグリと撫でまわしはじめた。
「希少性は私の方が高いけどね!」
「ただの白い毛むくじゃらじゃん、てか毛皮もっさもさ。」
だって自分じゃ梳かせませんからね!さぁ、母よ。思う存分私のことも撫でてくれてもいいのよ?
「タヌちゃん久々に見たけど、まずは櫛からかしらねぇ。」
え、いや母よ。貴女の梳かし方グイグイするのであんま好きくないのでご遠慮願いたい。
「タヌちゃんさぁ、妖型慣れて無さ過ぎて人語話せなくなってんじゃん。前は喋れてたでしょ、アホすぎてウケる―。」
おいこら妹、お前理解出来てんなら助けて。
「やだー、タヌちゃん後で私が洗ったげるから梳かして貰っときなよ。流石にそのモサモサ具合、引くよ。」
犬に引かれた、狸とか。
「それにしてもお姉ちゃん、白い狸って動物園とかに捕獲されないか心配ねぇ。」
「その姿だと話せないみたいだし、余計危ないかもねぇ。」
…もう少し、家での狸時間増やそう。
「そうそう、明日満月だからお姉ちゃんはお家にいた方がいいわねぇ。お休みだし丁度いいんじゃないかしら?」
「そういうのフラグっていうの、私知ってるー。」
やめて、勝手にフラグ立てないで。どうせ家にいますけどね!
「引きこもりポンちゃんは明日はお留守番で番狸よろしく!」
新しい言葉作らないで、番狸ってなんだ。番犬ならそっちのが得意じゃない。
「私は明日はお買い物の日なんですぅ、お父さんとお母さんも出かけるみたいだしタヌちゃん夕飯までには帰ってくるから私の分もよろしくね。」
え?お父さんとお母さん帰ってこないの?それよか、良く私の言ってること分かるわね。
「いや多分お母さんには分かってないだろうけど、癒し系モードだと通じ合うみたいよぉ?お母さんたちは日曜の夜には帰ってくるらしいから、明日の朝からお出かけだって聞いたような気がする。」
「なぁに?お話かしら、お母さんは愛の力で貴方たちの心の中まで丸見えよ!ちなみに明日はちょっと野暮用よ、朝って言うよりも日付変わった頃にお家を出るから日曜が終わる前までには帰ってくるからよろしくね。」
分かってないわね、良かった良かった。まぁ留守番くらいだいじょうぶだけどね、取りあえず今日はこのままでいようかしら。ちゆちゃん、お風呂よろしくー。
「いいよぉ、その代わり私も洗ってねぇ。」
洗いっこする犬と、狸とか凄いシュール。
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