あの人の思考回路

翼秋景

本庄桃太という男

 漱朋そうほう高校に繋がる、のどかな道を自転車で走る。川の土手に咲いた菜の花の匂いを嗅ぐのもこれで二度目だ。

 今日から俺は二年生になる。

 「高校生」に理想を抱いてこの道を通った一年前、俺は輝く高校生活を思い浮かべていた。一緒にふざける友達、面白い先生、楽しい毎日と少しの刺激。好きな子ができて告白して、付き合えなくっても甘酸っぱい経験。そういうものが待っていると思っていた。

 しかし現実は平凡だ。ふざけるほどじゃないけど友達はできたが先生はいたって普通。勉強に追われる日々に刺激なんてない。なにより、一年間女子と会話することなんてほとんどなかった。

 楽しそうなのは一部の生徒。俺が思い描いた日々を送れるのは選ばれた人間だけだと思い知った。

 俺は選ばれた人間ではなかったのだ。

 それでも悪い生活ではない。それはわかっている。だからこそ日常を打ち壊す勇気もなく、この焦燥感から抜け出せないでいた。

 今日から俺は二年生になる。どうせ今年も生産性のない、時間を消費するだけの一年になるのだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

あの人の思考回路 翼秋景 @tsubasa401

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ