第3話 10年前〜出会い〜
真由美は、実家からほど近くの女子大に通っていた。
今年、二十歳になる、大学2回生だ。
「はーーー。誰か良い人、いないかなー。」
最近、高校時代から付き合っていた彼氏と別れたばかりだった。
特に部活やサークルにも所属せず、適当に授業を受け、バイトに明け暮れる毎日。
正直、彼氏でもいないと暇で、別れた彼に未練はなかったがフリーの時期が嫌だった。
周りの友人たちもみんな彼氏持ちだったので、放課後も休日もデートに忙しそうだ。
「もう、このまま一生独りだったらどうしよう…。」
まだ二十歳だというのに、そんなことまで考えていた。
高校時代の友人、亜紀と久しぶりにメールをしていて、最近彼氏と別れたことを告げた。
『誰か良い人がいたら、紹介してね!』
彼と別れた寂しさから、誰彼構わずそんなことを言っていた。
数日後、亜紀から再びメールが来た。
『真由美、この前誰か紹介してって言ってたじゃん?私の大学の友達で、彼女欲しいって子がいるんだけど、よかったら紹介しようか?』
『ほんと?紹介して!』
そんな軽いノリで、紹介してもらえることになった。
その男の子の写真送って、とお願いすると、大勢で写っている写真が送られて来た。左から二番目の子。と。
ハッキリと顔までは分からなかったが、色白で細身の身体に、真面目そうな印象だった。
「会ってみないと分からないなー。」
その夜、早速その男の子からメールが届いた。
『亜紀からアドレス教えてもらいました(^ ^)木田 祐也です!よろしく(^ ^)』
『森本 真由美です(^ ^)よろしく!なんて呼んだらいいかな?』
すぐに返信したが、祐也からその日、返事はなかった。
翌日のお昼頃、祐也から返事が届いた。
『バイト終わってそのまま寝てしまってた〜(>_<)みんなからは木田ちゃんって呼ばれてるよ。真由美ちゃんは?』
『じゃあ私も木田ちゃんって呼ぶね(^ ^)私は友達にはマユとか、真由美って呼ばれてるよ!』
と、またすぐに返信した。
しかし、祐也からはまた返事がこなくなった。
今まで付き合っていた彼氏や友人たちは、メールは見たらすぐに返す、というのが当たり前だった。
今で言うLINEのように、テンポよくメールで会話していた。
その日の夜、やっと祐也から返事がきた。
『じゃあ俺もマユって呼ぶね!今からバイトいってきます(^ ^)』
このたった2行の文章を送るのに、どうしてこんなに時間が掛かるの?
この人、彼女欲しいって言ってたけど本当にそんな気あるのかな。
今までの男性とは違うメールのやり取りに、真由美は戸惑っていた。
「私も、もうちょっと時間置いてから返信しよう。」
メールを見てすぐに返信することも出来たが、今度は真由美もしばらく待ってから返信してみることにした。
それから、2人のメールはかなりのスローペースだが続いていった。
まだ会ったこともなかったが、真由美はいつも祐也からのメールを心待ちにしてしまっている自分に、不思議な気持ちになった。
「顔もハッキリ分からないし、メールのやり取りだけなのに、なんでこんなに1通のメールが嬉しいんだろう…。」
最初は2、3行だったメールも徐々に内容が濃くなっていき、お互いのバイトの話や趣味の話など、色んな話をした。
祐也の出身は九州で、今は大学の近くで一人暮らしをしているということ。バイトは飲食店で働いており、キッキンの仕事をしているうちに料理が得意になったということ。亜紀とは同じ大学の同じ学科で、大人数でよく遊ぶのだということ。趣味は読書で、休みの日はベッドでずっと本を読んでいるということ。
真由美が映画を観るのが好き、と言うと、じゃあ、今度一緒に観に行こう。という話になった。
そうしてようやく、初めてデートをすることになった。
初めてのデートの日、大学が終わってから映画を観に行く予定だった。梅雨明けの、茹だるような暑い季節だ。
真由美はお気に入りの花柄のスカートを履いて、改札口で祐也を待っていた。
「マユ…だよね?ごめん、遅れて!」
なんと、初めてのデートにも関わらず、祐也は30分遅れて到着した。何でも、駅に買ったばかりのメガネを忘れてしまい、取りに戻っていたらしい。
「全然いいよ。」と答えたが、心の中では最初のデートで30分遅刻するって、あり得る?と少し呆れた。
初めて会った祐也の第一印象は、大人しそうで真面目そうな、やっぱり事前に送ってもらっていた写真通りの印象だった。前に付き合っていた彼は少しヤンチャな感じで、よく喧嘩もしていたので真面目そうな人で安心した。
一緒に観た映画は、その頃話題になっていた恋愛ものだ。主人公の女の子は結婚を控えていたがガンで死んでしまう、という話。
泣けるストーリーだった。
映画館を後にして、少し歩こう、ということになった。
いつもメールで話していたが、実際に会って話してもすごく楽しかった。お互いのことを話している間に、あっという間に1時間経っていた。
海の見える、カップルには人気のスポットで、ふたりはベンチに並んで座った。
どのくらいの距離を空けて座るのか、今日会ったばかりなのでぎこちなかった。
「今度、ここで花火大会あるじゃん?あれ、一緒にいかない?」
と、祐也が言った。
「うん!行きたい!」真由美もすかさず答える。
「花火大会の日にさ、告白するから。返事、考えといて。」
と、言われた。
もう、告白されたも同然だけれど。
「えっ?!……うん。」
真由美は嬉しさを隠せなかった。
今日、初めて会った2人なのに、メールをしている時からずっと惹かれていた。
なんでメールだけのやり取りなのに、惹かれてしまうのか、分からなかった。
メールだけで好きになるなんて、私、変だな、と真由美は思っていた。
でも、祐也も同じ気持ちだったと知って、すごく嬉しかった。
お互い照れ臭くて、そのあとは何も無かったかのように話し、それぞれ家へ帰った。
花火大会まではあと1カ月。
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