第2話 再会
「コウター!もう、早く着替えないと遅刻するよ!」
怒りたくなくても怒ってしまう、朝の最も忙しい時間帯。
森本 真由美はメイクの仕上げに口紅を塗りつつ、2歳になる息子の保育園の準備をする。
「イヤ!」と、最近イヤイヤ期を迎えた息子はなかなか言うことを聞いてくれない。
「も〜!!こっちおいで!」
イヤーっ!と泣く息子を抱えて、無理やり着替えを済ませ、靴を履かせる。今日も、なんとか間に合いそうだ。
「じゃ、パパ、いってきまーす!ゴミ捨てはよろしくね!」
まだパジャマ姿の夫に声を掛け、息子の手を引いて家を出る。
30歳になったばかりの真由美は、2歳の息子と同い年の夫と3人家族だ。
真由美の勤める会社は大きな会社ではないが、正社員として事務の仕事をしている。
「じゃ、コウタ、また夕方お迎え行くからね。頑張ってね!」
小さなコウタの手にタッチして、いつものように保育園を後にする。
職場までは電車で3駅。子育てをしながら働く母親としては、通勤時間が短いのは有難い。
今日は土曜日なので、電車を待つ人も疎らだ。
フルタイムで働きながら子供を育てるのは、やはり大変だ。でも、真由美はきちんとメイクをして、キレイな服を着て、毎日仕事に出掛けるのが好きだった。職場では母親ではなく、ひとりの女性として扱ってもらえる。また、同世代の同僚も多く、まだ独身の若い子たちもいる為、自然と身なりには気を使う。結婚して、子供がいると言うとビックリされることも多く、真由美はそれが嬉しかった。
学生時代の友人たちは、出産を機に仕事を辞めた子も多い。みんな毎日スニーカーにジーンズを履いて、公園でママ友ライフを送っている。
どんどん所帯染みて行く友人たちを見ていると、仕事をしている方が自分には合っているな、と思うのであった。
「おはようございます。」
職場に着くと、早速営業部の佐々木さんに呼び止められた。
「森本さん、ご主人にこれ、渡しておいてくれる?」
仕事で使用するであろう書類を受け取った。
佐々木さんは、夫である聡史とも交流がある。
夫の聡史とは、入社して3年目の頃、取引先の営業担当として出会った。
第一印象はスポーツマンタイプで爽やかだが、女性とは遊び慣れていそうな印象だった。
聡史からのアプローチの末、何度か食事に行き、自然と付き合うことになった。
2人はすぐに、一人暮らしをしていた真由美のアパートで同棲を開始した。その後はトントン拍子に結婚が決まり、付き合って1年で入籍した。
そして子供を授かり、コウタが産まれた。
どこにでも居る、3人家族だ。
これが、幸せなんだと思っていた。
あの恋のことなんて、忘れていたからーーー。
土曜日は定時で上がれる。真由美の会社は、隔週で土曜日に営業日があり、今日は出勤の土曜日だったのだ。
「お疲れ様です。」土曜日ということもありり、みんな足早に会社を後にする。
真由美も制服から私服に着替えて、会社を出た。
真由美の会社は、この辺りでは有名なオフィスビルの中に入っており、様々な会社やレストラン、病院や結婚式場などもビルの中に入っている。
いつも帰宅時にはこれからのタイムスケジュールを考える。
今から保育園にコウタを迎えに行って、夕食を食べて、お風呂に入れて…。
そんなことを考えていると、エレベーターホールに着いた。
土曜日ということもあり、結婚式を終えたであろう、手には引き出物の紙袋を持った人たちで少し混雑していた。
ちょうど人の多い時間帯と被っちゃったな。そう思っていたとき、
「真由美?」
パッと声を掛けられた方を見て、心臓が飛び出そうになった。
何年経っても、胸が締め付けられる感覚になる。
「祐くんーーー。」
まさか、また出会えるなんて思ってもみなかった。
この再会が、真由美の人生を大きく変えることになるとは。
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