不倫スパイラル

季節が流れ、4月になった。麻衣は8月に出産を控えている。そして俺はこの春から同い年のある女性声優の専属マネージャーとなった。


その声優は元々子役だった。声優のキャリアは中学生からやっているというからかれこれ10年以上になる。最初は児童劇団で活動していたが、高校進学と同時にある事務所に移籍。しばらくは声優と女優を兼業していたが、高校3年頃からほぼ声優業に専念したという。そして、大学2年の時にこの事務所が設立し、それと同時にこの事務所へ移籍してきた。


俺は入社してからの2年間、数人の声優とともに彼女も担当していた。そして、彼女もこの3月まで数人のマネージャーさんがいた。しかし、この4月からは俺は彼女の専属マネージャーとなり、彼女の仕事についてはすべて俺が面倒を見ることになった。


「相川くん、今日はお疲れ様でした」


「白石、明日はオフだからゆっくり休めよ」


4月初旬、俺はこの日アニメのアフレコを終えたばかりの彼女・白石雪姫しらいしゆきを自身の住む自宅マンションへ送った。雪姫は今季5本のアニメに出演し、メインヒロインも務める超売れっ子声優だ。今月半ばには雪姫が主役のアニメのOPである5枚目のシングルも発売する。


そして、俺はそのまま車を飛ばし、自宅に戻った。自宅に戻るともう深夜の1時になろうとしていた。麻衣は仕事を終えて帰宅し、もう眠りについていた。そして俺もそのまま眠りについた。そして翌朝、俺は麻衣に起こされ、あることを言われた。麻衣の手には俺のスマホがあった。




「優、あんた浮気しとるやろ?雪姫ちゃんだっけ?今月入ってからその雪姫ちゃんと毎日のようにLINEしとるやんか。いくら仕事言うてもその頻度じゃ浮気を疑うわ。それにうち、妊娠中やで?あんたどう責任取るんや?」




麻衣は雪姫とのLINEのやりとりを俺に見せた。そしてその内容を見た俺は麻衣にその言葉を言われ、一瞬時が止まった。


「何、人の携帯触ってんだよ!それにパスワードはどうやって通した!」


俺は麻衣からスマホを取り、LINEの内容を見る。4月以降、雪姫ちゃんとは毎日のようにやりとりしていたが、仕事関係のやりとりだけで、恋愛感情をほのめかす内容はなかった。


「自分の誕生日をパスワードにしていたのは俺が悪かったけど、よく仕事のやりとりだけで浮気してると言えるな!浮気なんてしてねーよ!」


と俺は麻衣に言う。そして、


「・・・ごめん、疑いすぎたわ」


と麻衣は言った。そして、


「優、あんたやっぱ浮気してへんって信じるわ」


と言ってくれた。




しかし数日後、俺はたまたま読んだ週刊誌で信じられない記事が報じられていた。




「有名プロ野球選手と人気女優、W不倫!?」




記事の内容はこれだった。どうやら昨年12月上旬、既婚者である有名プロ野球選手と人気女優手を繋いでいるところが今になってスクープされていたのだ。


2人は同じ大阪出身で、プロ野球選手の方は一昨年と昨年、2年連続で首位打者を獲得したが、今季はキャンプ中に負傷し開幕絶望、そして復帰も未定だという。一方、女優の方は元アイドルでアイドルグループを卒業後、芸能界から離れていたが、数年前に芸能活動を再開し、女優として活躍。そして昨年結婚し、8月出産予定だという。まさかとは思うが、この時は仕事しかしてなかったので、麻衣のプライベートについては干渉できなかったからな・・・




俺は帰宅後、その週刊誌の記事を自宅にいた麻衣に見せた。


「大阪出身で、昨年結婚して、8月出産予定だという元アイドルの女優ってお前か?しかもアイドルグループを卒業後、芸能界から離れていたが、数年前に芸能活動を再開した女優ってもうお前しかいないぞ」


俺は麻衣にそう問い詰める。すると麻衣は、


「不倫なんてしとらんわ!でっち上げや、でっち上げ!確かにこの人は知り合いやけど、あくまで仕事での付き合いだけ!」


と言った。そして俺は、


「一応お前のこと信じるわ。でも、妊娠中なのに不倫って・・・もし事実ならお前に失望するわ、離婚だ離婚」


と言った。




そして翌日、麻衣はブログを投稿し、不倫のスクープについての説明をした。麻衣はでっち上げだと主張していた。そして相手のプロ野球選手も、ブログで不倫について否定していた。結局、お互いの不倫は全くのでっち上げだという証拠を、お互いの夫婦が顔を合わせることで証明した。




◇ ◇ ◇




7月になった。来月には麻衣が出産を控えている。雪姫は今季も7本のアニメに出演し、またしてもメインヒロインも務めている。そして、秋には6枚目のシングルを発売する予定だ。


7月中旬、俺は雪姫のシングルのPV撮影に同行するため2泊3日の予定で沖縄へ行った。沖縄は数日前まで台風が通っていたが、台風は中国大陸に向かいこの日は快晴だった。


午後、沖縄に着いてすぐ那覇空港から車で1時間だというホテルに移動し、夜までそのホテルで撮影についての準備が行われた。そして翌日はホテルに隣接しているビーチで朝から夕方まで撮影。無事撮影は1日で終了した。


そして最終日。この日は朝ホテルを出るとそのまま那覇空港に戻った。カメラマンさんたちは明日は別の仕事があるため午後の便で東京に戻る。そのため、那覇空港に着くと解散し、沖縄にいるのは俺と雪姫だけになった。そして、お互い明日がオフだったのと、雪姫が沖縄観光に行きたいと言ったため、もう一泊し、明日の夕方の便で東京に戻ることにした。


そのため俺と雪姫は那覇空港のレストランで昼食を取った後、ホテルのチェックインがある夕方まで暇になった。泊まるホテルは那覇市内の中心部だったため遠出はできなかったが、俺と雪姫は国際通りで買い物をするなどして楽しんだ。




そして夕方、ホテルに入る。部屋はビジネスホテルということもあり1人部屋にした。ホテル内のレストランで雪姫と夕食を済ませ、部屋に戻るとすぐ、産休中の麻衣から電話がかかった。


「優、あんた何やってんの?東京に戻らず明日は沖縄観光って・・・」


と麻衣は言う。そして、


「雪姫ちゃんと仕事上での付き合いは勝手やけど、くれぐれも恋愛に発展するようなことはせんようにな。うち、来月に出産控えているんやから」


と俺に言った。そして、


「うちの事務所は恋愛禁止だからその辺は大丈夫だろ。さすがに白石もそれはわかっているだろうしな」


と俺は麻衣に言った。




俺は麻衣との電話が終わると、シャワーを浴びた。そして俺がシャワーを浴びてしばらく経つと、部屋にノックがされたため、ドアを開けた。


ノックしたのは雪姫だった。そして俺は雪姫に、「何か用か?」と言った。すると雪姫は、


「相川くん。あなたに大切な話があります」


と言い、俺の部屋に入った。そして、


「相川くん、うちの事務所が恋愛禁止なのはわかっているし、あなたが既婚者だというのもわかってるの。でも・・・」


と雪姫は言う。俺は、


「おいおい、何の話だよ」


と雪姫に言った。そして、


「相川くんと知り合って2年余り、専属のマネージャーになって3ヶ月。相川くんと一緒に仕事をしているうちに私は気づいたの。私、相川くんが好きなんだ、って・・・」


俺は雪姫の言葉を聞き、一瞬時間が止まった。そして、


「俺の奥さん、来月出産を控えてるんだ。だから無理。しかも前、あいつ不倫でっち上げられたしな。それにさっき白石と恋愛に発展するなと言われた」


俺は雪姫にそう言う。すると、雪姫は涙目になりながら部屋を出た。




そして翌日、俺と雪姫は何かぎこちない状態のまま朝食を食べ、そのまま沖縄観光に出掛けた。

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