婚約中、しかしお互い多忙
4月、俺は大学を卒業し、ある芸能事務所でマネージャーを務めることになった。その事務所は3年前にSNミュージックのある役員が独立し、設立された事務所だった。事務所には麻衣や沙織さんをはじめ、ツバキガールズの元メンバーが数人在籍している。しかし、俺が配属されたのは声優部門。漫画やアニメの知識が一般人レベルで、むろん声優なんてほとんど知らない俺にとってはかなり疎い分野であった。麻衣のマネージャーを委せられたらよかったのに・・・
俺はアニメ業界について全くの素人だったが、実際業界に関わってみると、アニメやゲームというコンテンツは年々その地位を高めており、現在ではもはや日本の文化を語るうえに無視できない存在となっていることがわかった。そして、声優の地位もアニメやゲームというコンテンツの地位に比例するように上昇。声優という職はもはや、ツバキガールズのようなアイドルと言ってもいいような存在になっているのだ。
声優のマネージャーという職は予想以上に激務だった。平日はアニメのアフレコやラジオ番組の収録・生放送があり、その収録や生放送が終わるのが深夜になることもあった。そして、土日は毎週のようにイベントがあり、大阪や名古屋に出向くこともしばしばあった。会社のルールで最低2週間おきに1日、休みを取らなければならないが、その休みは専ら平日で、土日祝日は確実に休みが取れなかった。それに休みの日も、自分が担当する声優へ頻繁に連絡を取らなければいけなかった。
そして大学を卒業し、仕事に専念できるようになった麻衣も俺と同じような状況だった。ほぼ毎日映画・ドラマ・CMなどの撮影があり、テレビ番組の収録もあった。そのため、同じ日に休みが取れるという日がなかなか来なかった。
◇ ◇ ◇
声優のマネージャーになって半年が経って、俺もやっと声優のマネージャーの仕事に慣れてきた10月のある日、俺と麻衣はたまたま同じ日に休みが取れたため、デートをすることになった。しかしデート先をどこにするかは当日まで決めてなかった。麻衣は有名人で人前に顔を出せないし、今度いつ同じ日に休みが取れるかがわからない。
結局、俺と麻衣は日帰りで横浜に行くことにした。都内からも近くてふらっと観光に行ける。
まずは赤レンガ倉庫に行った。そこで色々買い物。俺はあまり興味なかったが、麻衣は興味津々で色々買っていた。そして少し歩き、昼食は中華街で食べることにした。そして昼食後は山下公園に向かう。山下公園では海を見ながらいつ入籍するかを話した。しかし、お互い今は忙しいので早くても半年後という答えになった。そして氷川丸を見学し、マリンタワーに向かい、展望台に上がった。時刻はもう夕方の4時だ。陽も西に傾いている。そして、関東一円が綺麗に見えた。その後2人は港の見える丘公園に向かった。公園に着いた頃には夕方の5時。秋になるとこの時間でも暗くなり始める。そして、ベイブリッジを見ると照明が灯し出されていた。そして、俺は麻衣に、
「来年の8月に入籍しよう。出会って9年になるし、付き合って8年になるからな」
と言った。そして麻衣は、
「うん。そのタイミングが一番いいね・・・」
と言ってくれた。
◇ ◇ ◇
そしてその約束から10ヶ月が経った。俺は声優のマネージャーになって1年以上が経った。俺も仕事に余裕が出てきて、4月になってからは、週1回休みが取れるようになった。そして俺と麻衣が同じ日に休みになると、必ずどこかへデートに行くことになっていた。
8月のある大安の平日、俺と麻衣は区役所に向かった。婚姻届を提出するためだ。10月には挙式が控えている。
「これで私、相川麻衣になるんやな・・・」
婚姻届を提出する直前、麻衣は俺にこう言ってきた。確かにそうだ。そして俺は、
「麻衣、入籍発表はいつするんだ?」
と麻衣に言った。すると麻衣は、
「明日、ブログで発表するつもりやで」
と言った。
こうして2人は婚姻届を提出し、晴れて夫婦になった。
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