プロポーズ

大学4年の秋になった。俺は就職が内定し、あとは卒業を控えるだけだ。そして俺は秋のリーグ戦をもって、野球部を引退する。3年生からは野球部の寮に入ることになったため、アパートは引き払った。そして麻衣は現在、キャンパス近くのワンルームマンションで一人暮らしをしている。


俺はケガもあって大学では4年の春にやっとベンチ入りでき、5試合に出場。スタメンも2試合経験した。結局その4年春のリーグ戦が大学野球唯一のベンチ入りであったが、麻衣も頻繁に観戦してくれた。


11月初旬、俺は野球部を引退するとすぐ寮を出て、麻衣の家で再び同棲を始めた。冬休みは大阪に旅行がてら行き、麻衣の両親と会う予定だ。俺は寮の荷物をそのまま麻衣の家に持ってきたためかなり狭いが、麻衣は「優がいないせいで広く感じた」と言っていた。




そして麻衣は昨年の夏、芸能活動を再開した。ツバキガールズの元リーダーが5年ぶりに芸能活動を再開したことは、ちょっとしたニュースにもなった。4年生になると卒業に必要な単位をほとんど取ったため、テレビに出演する機会も増えた。女優としてたまに映画やドラマに出ている他、秋からは一昨年ツバキガールズを卒業した沙織さんとともに深夜のバラエティ番組のレギュラーになった。




◇ ◇ ◇




そして12月、俺と麻衣は2泊3日で大阪に旅行した。初日は早速麻衣の実家に向かう。大阪に着いた頃には昼になっていたため、新大阪駅構内にあったレストランで昼食を取る。そして、そのまま麻衣の実家に向かった。麻衣の実家は新大阪駅から徒歩15分くらいのところにある一戸建てだった。


「こんにちは~相川です」


と俺は麻衣の両親に挨拶した。よく考えると初対面だ。


「ほう、あんたが相川くんか。いかにも野球やってそうな身体やな~」


と麻衣のお父さんは俺にそう言った。そして、


「麻衣も4月でもう28やから早よ孫の顔見たいわ~」


といかにも大阪のおばちゃんらしい言動を取る麻衣のお母さんが言う。


「麻衣って、どちらかと言うとお父さんに似てますね・・・」


俺は2人にそう言った。すると麻衣は、


「優、何うちの両親に呑気なこと言うとんの!」


と俺に言ってきた。そしてお父さんは、


「ところで麻衣、優くんとは付き合ってもう5年以上経ってるよな?今は同棲してるみたいやしさすがにもうヤッたやろ?」


と麻衣に言った。すると麻衣は、


「そんなん言えるわけないやんか!」


と言い、俺も、


「そんなこと言ってどうするんですか!」


と言った。そして俺は麻衣に、


「・・・ところで麻衣、今日が何の日かわかってるよな?」


と相づちを打った。そう、今日は12月24日。クリスマスイブだ。そして、


「お父さん、お母さん、今日はお世話になりました。よいお年を~」


と俺は麻衣の実家を出る時、両親にそう言った。そして2人は新大阪駅前のホテルに向かう。クリスマスのせいかもう満室だ。あらかじめ予約を入れて助かった。


夕食はホテル内のレストランで済ませた。食べたのは今日限定のクリスマスセットだった。肉類がいっぱいだ。そしてシャンパン。しかし高そうだな。


夕食を済ませると部屋に戻った。そして俺は、


「麻衣、結婚しようか・・・」


と麻衣に婚約指輪を渡した。そして麻衣は、


「うん、指輪ありがとう・・・ずっと一緒だよ」


と言ってくれた。




そして翌日は大阪と神戸に観光へ行った。道頓堀では、「ほー、ここがダイブ橋か」と俺が言うと麻衣は、「大阪人の前でそんなこと言うアホおるか!」と言われた。そして昼食時、「このうどん、汁薄いぞ」と俺は言ったが、麻衣は「大阪はそれやから我慢しーや!」と言っていた。


午後は神戸に向かった。神戸では三宮や新神戸のあたりを散策していた。そして夕方になり、新神戸のホテルに泊まった。夕飯はホテル内のレストラン。神戸牛のステーキを食べた。


最終日は新幹線で京都に向かった。高くはついたが、30分足らずで着いた。京都観光は久しぶりだ。しかし時間の関係上、あまり長くはいられなかったので京都駅周辺のお寺や神社でお詣りするだけで終わった。最後に京都タワーの展望台に登り京都一帯を眺め、夕方の新幹線で東京へ戻った。そのため夕食は弁当を買い、新幹線の車内で食べた。そして東京に着いた頃にはもう夜になっていた。




◇ ◇ ◇




4月、俺は大学を卒業し、ある芸能事務所でマネージャーを務めることになった。その芸能事務所には麻衣や沙織さんをはじめ、ツバキガールズの元メンバーが数人在籍している。しかし、俺が配属されたのは声優部門。漫画やアニメの知識が一般人レベルで、むろん声優なんてほとんど知らない俺にとってはかなり疎い分野であった。




そして時を同じくして、俺と麻衣はマンションに引っ越し、結婚の準備を始めた。

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