空いた左手で近くにあったペットボトルを取って口を付けます。


「はぁ……うぐっ……あぁ……うぁ……」


 ゆっくり時間をかけて味わって飲み干すと、ペットボトルを床に置きました。


 床には、最近できた赤黒い染みが広がっています。先輩が汚しました。


 けれど、掃除したのは私です。


 仕方ないです。先輩後輩の力関係は絶対ですから。


 しかし、どんなに強力な洗剤を使い、モップやブラシでゴシゴシ洗っても、全く綺麗になりません。


 椅子から下りて、床に座り込みます。


 染みに手を触れ、顔を近づけます。


 あれから半年以上経ちましたが、まだ強烈な臭いを発しています。


 鼻から入って脳の奥まで刺激するような臭いです。


 私はふらふらと立ち上がって冷蔵庫に近づきます。


 戸を開けると、中は空でした。どうやら先ほどの物が最後の一本だったようです。

 

 染みのついた床に座り込みます。


「先輩。先輩。先輩。ああ、先輩!」


 どれほど呼んでも、どれほど叫んでも、彼女は現れません。


 なぜなら私の大好きな人は――。







「ここにいるよ」











 誰もいないはずの教室から声が聞こえました。


「誰っ!?」


 私は勢いよく振り返ります。


 顔を向けた先には、一人の女の子が立っていました。


 いつからそこにいたのか、どうやって入ってきたのかは分かりません。

 

 しかし、そんなことよりも先にかけるべき言葉がありました。


「おかえりなさい、先輩」


「ただいま」


 私の大好きな人は、確かにそこにいました。


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