第4話
「わぁお……」
思わず口から変な声が漏れてしまった。見上げているのは
「風音さんの家、大きいねー」
「そうでもないですよ、庭とかあるから広く見えるだけです、さ、どうぞ
いや、普通の家は庭とかあんまりないからね?
風音さんに玄関を開けてもらって、私は意を決して家の中に入る。
「おじゃまします」
お母さんとかお父さんとかいるんだろうか。何かドキドキする。もちろん友達の家に行ったことがないわけじゃないけど、こんな豪邸におじゃますることはないので、何だか気が引けてしまっていた。
「お父さんとお母さんは出張で出かけてるんです。明日まで帰ってこないから、遊里さんが来てくれて嬉しいです」
「あ、そうなんだ。出張って仕事で?」
「そうです。両親とも医者をしていて、同じ病院で働いてるんです」
お医者さんかぁ……なるほど。
「さ、私の部屋はこっちです。どうぞどうぞ」
風音さんについて、2階に昇る。そのままどうぞどうぞと部屋に案内された。
「おー、ここが風音さんの部屋かぁ」
案内されたのは広めの部屋だった。勉強机に広めのベッド、壁の一角にはエレクトーンまである。ベッドはピンクの毛布、床のカーペットも薄いピンク。子供ぐらいの大きさのぬいぐるみなんかもあって、まさに女の子の部屋って感じがする。
「あ、あんまりジロジロ見られると恥ずかしいですね」
ちょっと照れた様子の風音さん。うーん、相変わらずの可愛さ。
「その辺に座っててください。お茶を入れてきますから」
そう言って風音さんは部屋から出ていった。立ってるのも何なので、言われたとおり、カーペットに置いてあるクッションに座る。おぉ、ふかふかだこれ……
「で、ここはこの方式を使って……」
「なるほど……あ、こうなるんですね」
何やら美味しい紅茶を淹れてもらってひと息ついて、私たちは勉強会を始めていた。風音さんは自分では勉強が苦手だ、なんて言っていたけれど、どうやら勉強の仕方が悪かったみたいで、コツを教えるとどんどん理解してくれる。
「遊里さんの教え方、とてもわかりやすいです。すごいですね」
「いやいや、風音さんの覚えが良いんだよ。この調子なら今度の中間テストはもっと良い点取れるんじゃないかな」
「本当ですか?頑張ります!お願いしますね、遊里先生」
「うん、任せといて!でもまあ結構やったしそろそろ休憩する?」
「そうですね、またお茶淹れてきます」
風音さんが立ち上がり、またお茶を淹れに行ってくれた。その間に私は勉強グッズをいったん片付けて、自分の鞄を漁る。目的の物を見つけて、机の上にそっと置いた。やっぱり息抜きと言えばこれでしょう。
「お待たせしました。あれ、遊里さんそれは……」
「ふふふ、そう。カードゲームのデッキ!実は風音さん用のデッキ組んできたんだー。お土産代わりと言ったら何だけど、あげるから使ってみて!」
「本当ですか!?ありがとうございます!さっそくやってみたいです!」
喜んでくれてるみたいで良かった。店長と2人で仕事中にデッキ組んだかいがあったってもんだ。
「じゃあちょっとデッキの説明するねー。まずコンセプトはゾンビデッキです!」
「ゾンビ!素敵ですね!」
目をキラキラさせる風音さん。ゾンビ好きだって言ってたからゾンビデッキを組んできたのは正解だったみたい。あれ、そういえばこの部屋にゾンビとかの要素が無いことに気づいた。こんなに好きならもっと色々あるのかと思ってたんだけど。
「まずね、この黒のゾンビがキーカードで……」
「ふむふむ……」
もしかすると勉強してたときより真剣だったかもしれない。その証拠に、デッキの説明をして、2人で対戦を何回かしてたらもうすっかり夜になってしまっていたから。
「はっ!風音さん、もうこんな時間!」
「あっ!つい熱中してしまいました……遊里さん、朝にお手伝いの中村さんが作っていってくれてる晩御飯があるんですけど、食べていきませんか?私は温めるだけなんですけど」
お手伝いさん。両親共働きって言ってたし、普通だよね、うん。
「そうだね、せっかくだしいただこうかな。ちょっと親に連絡しとくね」
「はい!じゃあ準備してきますね!」
風音さんはなんだか嬉しそうだった。晩御飯1人で食べるのが寂しかったんだろうか。やっぱりところどころ可愛いな。
と、可愛さにもだえてる場合じゃない、お母さんに連絡しとかないと。
「友達の家で晩御飯食べて帰るね、っと」
スマホでメッセージを送ると、すぐにお母さんなから返事が来た。
『ほんとに女の子の友達?彼氏じゃないでしょうね』と。
『女の子だよ。残念ながら彼氏はいませんから』
『でしょうね。』
何がでしょうね。だ。なんて親だ、まったく。
「遊里さん、どうでした?」
部屋のドアが開いて、風音さんがおそるおそるといった感じで聞いてきた。
「大丈夫だったよ。ごちそうになります」
「はい、中村さんのご飯とっても美味しいんですよ。楽しみにしててください」
「あ、私も準備手伝うよ」
「大丈夫です、遊里さんはゆっくりしててください。準備できたら呼びに来ますから」
ぐっと右手を出して制された。そこまで言われたらじっとしてたほうが良いんだろうか。
「んー、じゃあお言葉に甘えて、待ってるね」
「はい、では行ってきます」
「行ってらっしゃいー」
ひらひら手を振ると、風音さんもひらひら手を振り返してくれた。その笑顔がまた可愛くて、ドキッとしてしまう。
部屋の中に1人になって、少し考えてみた。風音さんって結構寂しがりやなんだろうか。晩御飯食べるって言った時にすごい嬉しそうだったし。だとすると今日は両親が帰ってこないって言ってたし、夜も寂しかったりして?
「うーん……」
余計なお世話かもしれないけど、もしそうなら晩御飯の時に泊まっていいかって聞いてみようかな。全然用意とかしてないけど……まあジャージでも借りればなんとかなるか。一応先にお母さんに聞いてみよ。
『今日友達の家に泊まってってもいい?』
『良いけど、本当に彼氏とかじゃないでしょうね?』
む、なかなか疑り深い。
『違うって、なんなら後で写真撮って送るから』
『まあ、それなら良いよ。あんまり迷惑かけないようにね』
あっさりOKを貰えた。一応後で写真送っとこう。そういえば一緒に写真撮ったことないし、初お泊り記念ってことで撮っちゃおう。なんだかいつの間にか自分の中でお泊りが決定していた。
「遊里さん、準備できましたよ」
それから少し待っていると、風音さんが呼びに来てくれた。
「わーい、ありがとう」
「いえいえ、さ、行きましょう」
風音さんに連れられて、階段を降りて居間に向かう。居間ももちろんすごく広かったけど、お腹が空いていた私はテーブルの上の料理に夢中だった。
「わ、美味しそう」
「ええ、きっと美味しいですよ。そちらへどうぞ」
テーブルの上には、ご飯に肉じゃが、ほうれん草のおひたし、卵焼き、お味噌汁という美味しそうな和食のメニューが並んでいた。見慣れた料理で良かった。もしかしたらよくわからないフランス料理とか出てくるんじゃないかってちょっとドキドキしてた。
「それじゃ、いただきます」
「いただきます」
晩御飯を食べ始めた私達。と言っても風音さんはお箸を片手に私をじっと見つめてるけど。これはとりあえず食べて感想を言ったほうが良いんだろうか。じゃあとりあえずほうれん草を。
「………………」
「わ、美味しい。うちのよりすごいしっかりしてる」
「え、ええ。しっかり味がして美味しいですよね」
まだじっと見つめられ続ける。あれ?これ全部言うまで終わらないやつ?
「じゃあ次は卵焼きを……」
「あっ」
「ん?」
卵焼きを掴もうとすると、風音さんが何か変な反応をした。何だろう?何か珍しい卵焼きなのかな?珍しい卵焼きって何かよくわからないけど。
「いただきます……」
「………………」
卵焼きを口に運ぶ。お母さんのと比べるとちょっと味が薄いかな?でもこれはこれで卵の甘い味がして美味しい。
「うん、美味しいね」
「本当ですか!?」
「わ、ほ、本当だよ。美味しいよ」
急にくいついてきた風音さんにちょっとびっくり。
「良かった……実はその卵焼き、私がさっき作ったんです」
「え、そうなんだ。わざわざ作ってくれたんだね、ありがとう。美味しいよ!」
「は、はい。そう言ってもらえると……嬉しいです」
顔を赤くして照れる風音さんに、なんだかこっちも照れてしまって、熱くなってくる。
「あ、か、風音さんも食べてね!」
「は、はい、いただきます!」
結局、晩御飯を食べてる間はずっと照れくさくて、まともに目を合わせられない私達だった。付き合いたてのカップルが手料理食べさせてもらった時ってこんな感じになるのかな、なんて思ったけど、私が風音さんに手料理を食べさせてもこうはならなさそう。やっぱり風音さんが可愛いからかな、うん。
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