生徒会長選挙
「六道君、結局、昨日はどうだった?」
次の昼休み。大悟は何やら用事があるといってどこかに行ってしまい、信也は与一と二人で購買に向かっていた。与一にしてみれば、アリバイ作りに使われたわけだし、その質問の権利は当然ある、のだが。
どうだったと聞かれてもなぁ。
久世真希名と一夜を過ごした。なんていえるわけがない。もちろん、そんなロマンチックな話ではなかったが、真希名の話が十分の一でも事実であったなら軽々しく話すわけにはいかない。いくら与一の口が堅いとは言っても、親友を厄介ごとに巻き込むのだけは避けたかった。
「なんつーか、ゴメン。あんまり詳しくは言えないんだ」
「……それってやっぱり、久世さん絡みの話でしょ」
こいつ、出来る……。
与一は、オタク的気質の持ち主ではあるが、意外とコミュニケーション力に長けているというか、人のことを良く見ている。しかも、信也とは中等部からクラスがずっと一緒だったのだ。根が単純な信也の思考など、ある意味筒抜けである。
「……会ったのは事実だけどな。いろいろ口止めされてるんだ、頼むから見逃してくれよ」
「昨日も言ったと思うけど、船戸さんになんで言わないのさ? 僕には言えなくっても、船戸さんにはホントのこと言ったっていいじゃん」
「なんでいちいちリーシャにそんなこと報告しなきゃいけないんだよ。あいつに言うと、いろいろうるさいんだよ」
与一は、なおも不満そうな顔でぶつぶつ言っている。あいつの話になると、こいつはなんだかんだと絡んでくるよな。
「そんなことより、お前、この学校の生徒会長が誰だか知ってるか?」
「え? むしろ六道君知らないの? 超有名人じゃん、
誰だよ、それ。
「なんか、如月財閥の御曹司で、超絶お金持ちらしいんだ。でも、そういう家柄を鼻にかけることもなくって、誰にでも気さくに接してて。しかも学業は優秀でスポーツは万能。しかも人望も厚いという」
「なんだとっ! オタクや非モテの敵じゃないか!」
許せん。信也はこぶしを握り締めた。
「ところがそうでもないんだよ。本当に知らない? 夏休み前の選挙で、めっちゃポスター貼られてたじゃん」
「ポスター……あ! あのブタゴリラか!」
与一は、慌てて信也の口をふさぐ。
「だ、だめだよ! そんなこと言っちゃ。ルックスには恵まれなかったかも知れないけど、如月先輩は今回の生徒会長選挙で改めて女子にも評価されたみたいでね。今は隠れファンクラブまであるらしいんだ。本人は女性に免疫ないみたいでまったく気づいていないらしいけど」
そんな奴が……うちの生徒会長だったとは。
二人は、購買で買い物を済ませると、校庭の隅にあるベンチに陣取った。
ツナ山盛りサラダのふたを開けながら、信也は話を続ける。
与一は、前からなぜか学内の事情に詳しい。だったら、信也には聞くべきことがあった。
「なあ与一、お前、うちの生徒会長選挙の仕組みについて詳しかったりするか?」
「一般的なことなら知ってるよ。生徒会長選挙は毎年七月に開催されて、全校生徒の投票で決まるとか、そういうことを聞きたいの?」
「ああ、生徒会っていうのはどういう風に決めているんだ?」
「えっとね。この学園の場合は生徒会長だけを選挙で選ぶんだ。それで、選ばれた会長が残りのメンバーを指名するんだって。会長の権限が大きいから、結構なりたがる人は多いみたい。毎年かなりの数の候補者が登録されるけど、予備選でふるい落とされちゃう」
「予備選だって? なんだそりゃ」
「大げさにそう呼んでるだけだよ。明らかに候補としてふさわしくなさそうな人とか、あるいは得票をとれない感じの人を最初にふるい落としちゃうんだ」
中等部から通っている信也にも、この話は新鮮だった。
そういえば中等部には初めから生徒会長なんていうシステムが存在しない。
せいぜいがクラス委員だ。
「選挙活動って、いつから始まるんだよ」
「ええとね。まず候補者登録は四月一日からじゃなかったかな。それで、受け付けはゴールデンウィークの前で締め切り。で、それと同時に第一次投票が行われて、そこで候補者の上位だけ残るんだよ。今年もやってたじゃん。校門のところでよろしくお願いしまーすってピエロのカッコした男の子が竹馬乗ってお皿回してたでしょ。あれも候補者。予備選で敗退したけど」
なんと! あれが選挙活動だったとは。
信也は、てっきりゴールデンウィーク前のお祭りか何かだと思っていた。
「で、予備選が終わったらどうなるんだ?」
「そしたら、選ばれた候補者同士で選挙活動して七月に投票だよ。あ、もしかして六道君、投票すっぽかしたんでしょ」
「まあまあ。で、本選にはどんな奴が残るんだ?」
「そうだねー。ちゃんとした候補者は届け出の段階でしっかり準備してるみたい。生徒会のメンバー候補なんかもしっかり決めて、そういうのも入れたポスター作ったり。如月先輩の選挙ポスターは、すごくしっかりしてたし、カッコ良かったなぁ。中心にド迫力の如月先輩の顔があって、その周りに美男美女。インパクト十分だったもん」
「選挙ポスターね……」
ボリュームたっぷりの焼きそばソーセージパンを食べ終わると、信也はペットボトルのふたをあけた。
信也の昼飯と言えば、わずか百円の激安パンとお値打ち五十円の購買ブランド茶、たまに贅沢にサラダがつく程度である。
「それってかなり、金持ちの道楽っぽいよなぁ」
「そんなことないよ。ちゃんと学校から補助金も出るらしいしさ。ポスターとかは、逆にお金使っちゃダメなんだって」
「ふーん。でも、そんな生徒会長なんてめんどくさいこと、なんでやりたがるんだろう」
「やりたい人なんていっぱいいるでしょ。例えば、大学の推薦に有利だからって立候補する人もいるし。それで、当選しちゃう人もいるけど、そういう人は案外しっかり取り組んでくれるんだよね。職員室での評判も上々だったり。逆に、すごくかわいい女の子がアイドル気分で立候補しちゃったりすると、いろいろ大変って聞くかな。取り巻きが喧嘩ばっかりして修羅場になっちゃうんだって。まあどっちみち、そういうのは当選しないと思うけどね」
「現生徒会長様は、どうなんだろうな」
「如月先輩はめちゃめちゃいいと思うよ。もともと、今の副会長が立候補させられそうになって、それで俺が代わりにやるってことらしいから。なんかお人よしというか、漢気のある人なんだってさ」
遅れてハムカツサンドを食べ終わった与一が、お茶を一口すすって信也に聞いた。
「でも、なんでそんな生徒会長選挙なんてことに興味もったのさ? もしかして出たいの? だったら僕、協力しちゃうよ」
信也は、とんでもないことを言い出した与一をにらみつける。
「ばーか。俺は平凡で地味がいいんだ。悪目立ちするのは嫌いなんだ」
信也は、どこかで聞いたような台詞をもごもごとつぶやいた。
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