第9話 魔力と霊力 下


「……」


 ルダージュの正直な感想は「あーマジか」という納得と落胆だ。

 覚悟はしていた。むしろ0と診断されるよりは断然いい結果ではある。魔法の存在しない世界から来たことを踏まえれば、魔力が存在すること自体が奇跡のように思えた。

 もしルダージュが最初からこの世界にトリップしただけなら手放しで喜んだだろう。「俺にも魔法が使えるんだ!」と。


 でも現実はそうではない。

 彼はセルティアに召喚され、命を救われた。そして彼女の召喚獣になった。

 この結果はルダージュの評価であると同時にセルティアの評価でもある。魔装があれば――魔法のような能力を持っているのだから魔力も……という想いはあった。だがそれは希望的観測でしかなく、下手したら魔装を加味したからこそ、この結果なのかもしれない。


「おい、生徒会長の精霊が評価2って……」

「信じらんねー」

「人型は魔力が少ないんですかね?」


 どちらにしろルダージュがセルティアの足を引っ張っていることに変わりはない。

 傍観していた生徒たちが生徒会長の召喚獣の結果を知り、好き勝手に喋り始めている。

 あまり気分のいいものではない。


「ごめん、セルティア。俺――」

「気にしないでください」


 謝ろうとした矢先、本人に遮られた。


「ルダージュが謝る必要なんてありませんよ」


 セルティアの顔を見る。

 そこにはつい先ほどと何ら変わりない彼女の笑顔があった。それどころかルダージュの目が節穴でない限りどこか安堵したような表情さえしている。


「魔力なんてなくてもルダージュが最高の精霊であることに変わりはありません」

「……ありがとう」


 素直に喜ぶことは“許されない”が、セルティアが本心で言ってくれていることぐらいは理解できた。


(俺は、本当に良い召喚士と巡り会ってしまったようだ)


「精霊は基本的に魔力が大きいわけではない。トロの評価7はおそらく今年の最高値だろう。比較して気落ちすることはない」

「はい」


 ヴァルトロは強力な精霊だ。ミリアが学園最強の魔力を持っていると聞いたときから予想はできていた。


「……」


 当の本人はいつの間にかヴァルトロを回収し戻ってきていた。ルダージュの評価を耳にしたからなのか、どこか顔色が優れず複雑な表情をしている。なんとなく、あの顔を見ているとミリアとの保健室でのやり取りを思い出す。彼女はルダージュとすれ違う瞬間にこう言っていたのだ。『セルティーにとって召喚獣は特別なんです。だから頑張ってくださいね』と。

 それが今のセルティアの態度に直結しているのだろうか? ルダージュにはまだわかりそうにない。


「さて、リアも戻ってきたことだし、次は霊力を測ろう。どうせ暇だしそっちも私がやるよ」


 ついてきなさい、とアーネが言い残し奥へと進んで行き、ルダージュたちが後を追う。

 いつまでも結果を引き摺るわけにもいかない。彼女の言う通り測定はまだ残っている。低評価なんてわかりきっていたことでぐだぐだ悩むより、どうやって汚名を返上するか悩んだほうが建設的だ。


「先生、ここは私が測るのであっちの方をお願いします」

「え? あー……わかりました。お願いします」


 霊力測定を担当していた男性教師とすれ違う。その際、ポンと肩を叩かれ「頑張りなさい」と励まされた。


「どうする? 霊力はルルからにするか?」


 アーネが色違いの測定器の隣で問う。彼女なりのちょっとした配慮だろう。ヴァルトロは霊力も高評価の可能性が高いので、その後に測るとまた周りに注目され比較されてしまうからだ。


「いえ、ルダージュが後で構いません」


 だが、セルティアはきっぱりと断ってしまった。


「ルルはそれでいいのかい?」

「……大丈夫です」


 真意はわからないがあまりに堂々とした態度だったため文句も浮かばなかった。ルダージュの強さなどまるで興味がないんじゃないかと勘繰ってしまうほどだ。


「……はあ」


 アーネはルダージュたちを見つめるとやがて呆れたようにため息を吐いた。そしてミリアからまたヴァルトロを攫うと測定器の上に載せ測り始める。


『括目せよ! これが蒼剣の霊鳥である我の実力だ!』


 ヴァルトロが翼を大きく広げ片足を上げてポーズをとり荒ぶっている。この空気を読めない感じは、ちょっとした癒しになりそうだ。ついでに投げ飛ばしたらストレス解消にも効果があることだろう。


「結果は8……いや、これは9だな」

「……!」


 生徒たちからどよめきが起こる。ミリアすら自分の精霊の強さに驚愕している。


「霊力が最高クラスに近い召喚獣は学園史上3人目だ。おめでとう」

「あ、ありがとうございます」

「やりましたね! ミリー!」

「セルティー……ありがとう」


 美少女2人が抱き締めあっている。

 なんだろう、この気持ちは……ちょっとした疎外感だろうか? ルダージュはうまく言葉にできない。


『仲間外れはいかんぞ! 我も挟まれたいのだ!』


 確実に言えることはヴァルトロとは別の感情だということだ。


「ルル、次はキミの番だ。こちらに来なさい」

「……はい」


 促され、アーネの横に立つ。

 まるで名前を書き忘れた答案用紙を受け取りに来た気分だ。結果などわかりきっている。


「先に注意事項だ。この測定器に血を与える必要はない……というか与えては駄目だ」

「なぜですか?」

「精密な魔導具だからだよ。故障の原因になる」


 それなら順番的に霊力から魔力を測ったほうが壊す心配がないように思えた。


「霊力はね、危機が迫ると一定期間力が増すんだ。正確には本来の力を発揮できる、と言うのが正しい。だから血を流すという刺激が最初に必要不可欠なんだ」

「なるほど」


 ナチュラルにルダージュの心を読むアーネだが、そのおかげで仕組みは理解できた。つまり人間でいう火事場の馬鹿力を測ってるようなものであり、ルダージュはそういう認識にとどめることにした。


「今回は結果が出るまで手は放さないように」

「わかりました」


 演習場がまた静寂に包まれる。

 やりづらい。ほっといてほしい。どうしてそんなリアクションが律儀なんだ。お前ら連帯感ありすぎだろ! 周囲と相反するようにルダージュの胸がざわつき騒がしくなる。


「……ふぅ」


 腹を括る。

 ガシッとバランスボール並みに大きい測定器を鷲掴みにする。すると魔力測定器のときと同じように全体が発光を始めた。

 だが――


「……」

「……ふむ」


 内部の円盤の針は何も示さなかった。握力計のようにぐいっと動くわけでもなく、時計のように機械的に刻むわけでもない。ただそれは沈黙を続け、ルダージュに答えをくれなかった。


「先生、これはどういう……」

「これは、そうだな……」


 アーネがルダージュにだけ聞こえるように評価を下した。


「言いにくいが……霊力はゼロだ」

「……」


 クレイゼル先生!!

 ルダージュは心の中で叫んだ。変身できれば大丈夫、なんて嘘じゃないか! と。ルダージュの嘘がたった数時間で破綻の危機に陥る。こんなことなら霊力について詳しく聞いておくべきだったと後悔するが――


「まあ、待て。そう落ち込むな。精霊に霊力がないなんて聞いたことがない。人型だからと言ってもそれはありえないはずだ。そのまま手を載せて待機しているように」


 ルダージュに配慮しているのか、アーネは抑え気味な声でそう告げると、測定器を調べ始めた。ルダージュが精霊ではない、と疑う気配すらない。


「おかしい……どこも悪いようには見えない。問題は内部か……?」


 測定器を熱心に点検しているアーネに対して嬉しさと同時に罪悪感が生まれる。信用している、と言うよりはルダージュが精霊ですらないとは考えもしないのだろう。


「あーわからん。めんどくなってきた。ルルはこのまま評価ゼロでいいか。人型は霊力も異例ってことで」

「ちょっ!?」


 それは困る!

 精霊認定されるのであればどの数字でも構わないが、セルティアを落胆させないためにもゼロ以外が欲しかった。


「冗談だ。これから魔導具に詳しい先生を呼んでくる。だからキミはここで待ってなさい……ん?」

「……?」


 アーネが急に黙り込み、測定器を凝視し始めた。ルダージュも手が放れないように注意しながら少し前屈みで覗く。

 すると突然――


「――きゃっ!」

「おっと!」

「「……!!」」


 鉄筋が引っ張られて千切れたような破砕音が鳴り響いた。それは円盤の針が壊れた音だった。先程までピクリとも動かなかったのが嘘のように、球体の中を不器用に回転しながら弾き回り、十秒ほど経過した後ようやく止まる。

 

「なんだ、これは……?」


 尻餅をついていた先生が呟く。


「大丈夫ですか先生! ルダージュ!」

「怪我はないですか!?」

「ああ、俺は問題ないよ。……先生、大丈夫ですか?」


 セルティアとミリアが駆けつけてくる。

 この状況では測定は続行不可能なので、丁度空いた手をアーネに差し出した。


「……」


 アーネは無言で手を取り立ち上がるとお尻を軽く手と尻尾で払う。始終澄まし顔だったが、頬はほんのり赤みがかっていた。悲鳴や自分の体勢を思い出して照れているのだろう。


「……何か、言いたそうだね?」


 お得意の悟りのようだが、


「言っていいんですか?」

「うぐっ」


 苦々しい顔をしている。


「え、遠慮しておくよ」

「先生がビクついたとき耳と尻尾が一瞬ピンッと張ったのが一番かわいいと思いました」

「言わなくていい! しかも一番ってなんだ一番って! 二番も三番もあるのか! ええ!?」

「あふぁっ!? いふぁいでふって! ほふぉをふままないでくだはい!」


 ほっぺたを摘まれた。結構痛い。そして自ら墓穴を掘るのは愛嬌なのだろうか。


「アーネ先生! 私のルダージュを苛めないでください! ルダージュは本当のことしか言ってないですよ! 私も可愛いなって思いましたから安心してください!」


 セルティア、フォローするように火に油を注いでいく。


「大人をからかうんじゃない!」

「からかってないですよ! それに歳は4、5歳しか違わないじゃないですか!」

「年齢のことは言うな!」


 ガルルッと唸るように犬歯を剥き出しにして威嚇してきた。


(犬かよ……てかイヌ科か。ウルフ系って言ってたし)


 このまま年齢を聞いたら噛みつかれそうな勢いだ。


「とにかく、だ! 霊力がゼロなのはおかしいし魔導具も壊れてしまった。これから再検査だ」


 無理矢理話を戻し、先生はそう宣言する。だが、その声は少々でか過ぎた。


「霊力がゼロ……?」

「……! あーティア、それはだな……」


 しまった……と天を仰ぐアーネを放置し、セルティアが振り返る。


「ルダージュ、霊力がゼロというのは本当ですか?」


 ルダージュを見つめる瞳は驚きの色に染まっているだけだった。そこに失望や疑念はない。単純に自分の召喚獣に霊力というものが存在しないことに驚愕している。


「……」


 言葉うそが出なかった。思い浮かばなかった。

 何をどう伝えれば最善であり、自分たちにとって都合のいい答えなのかわからない。


「――気にしないでください」

「……え?」

「謝る必要もないですよ。霊力なんてなくてもルダージュは私にとって最高の精霊なんですから」


 セルティアが笑う。「1か2ぐらいはあったほうが良かったんですけどね」とおどけて笑っている。

 おかしい、変だ。

 セルティアは学園のトップであり生徒会長だ。彼女の成績に係わるルダージュの評価はどちらも最底辺といえる結果だ。だが彼女自身は気にした様子もない。


 落胆もせずに笑っていられるなんてありえるのか?

 ミリアとヴァルトロの結果にあんなに喜んでいた彼女が『1か2ぐらい』でもいいなんて言うのだろうか?

 それに、さっきの表情のことを考えると、これではまるで――


「セルティア――」

「アハハハハハ!! これは傑作じゃないか!」


 ルダージュが彼女の本心を確かめようとした瞬間、哄笑こうしょうが演習場に響き渡った。


「学園の生徒会長様が魔力2霊力ゼロの精霊を召喚していたなんてね! 腹が捩れて死にそうだよ!」


 周囲の学生にもルダージュの霊力がゼロだということが伝わってしまったようだ。

 ルダージュが声を辿ると、その先にはいかにも自尊心の塊でできたようなヤサ男が嗜虐的な笑みを浮かべていた。


「そもそもノイシス様のおかげで伸し上がった平民風情が生徒会長に座に就くこと自体が間違いだったんだ! みんなもそう思うだろう?」


 その言葉に数名の生徒たちが同調する。共通して、ルダージュたちが着ているものより多少煌びやかに装飾された制服を着ており、その上に派手なローブを羽織り着飾っている。

 学園内にいる貴族の一部だ。


 セルティアからこの学園の生徒は平民と貴族で構成されていることをルダージュは聞いていた。『貴族』と聞くと何となくイメージ的に悪者扱いしたくなるが、不穏分子はごく一部である。


 他の貴族生徒でも彼らの言動に眉を顰めている生徒たちはいるし、平民生徒は言わずもがな。どちらかといえば男は喋るたびに自ら首を絞めているような状況だ。


「いつものことです。気にする必要はありません」


 セルティアが演習場に入った時と同じ言葉を吐く。でもそれはどこかセリフ染みていて諦めた表情をしていた。

 ルダージュはそれになんてもいえない苛立ちを覚えた。

 腹が立つなんて陳腐な言葉では言い表せないほど不快感であり、虫唾が走るとはこのことだった。


 今もまだ貴族がどれほど高尚か説いている阿呆な男やその周囲。何よりこんな状況を生み出してしまった自分自身が不甲斐なくて許せないのだ。


「やはり貴族であるこの僕、アーデルデ・グロウ・カスティーこそが学園の頂点として相応しい! 僕は魔力5霊力6の優秀な精霊を手に入れた。珍しい人型精霊とは言え魔力が2の雑魚なんて、召喚獣として風上にも置けない屑精霊だよ」

「――聞き捨てなりませんね」


 セルティアが黙止をやめ、アーデルデと対峙する。


「私のことを悪く言うことは別に構いません。ですが……召喚士として、この学園の生徒として、私たちの良きパートナーである精霊をおとしめるその言葉、見過ごすことはできません!」


 それは初めて見る生徒会長としてのセルティアの姿だった。

 周囲の生徒たちも感化されたのかアーデルデに敵意を向ける。


「……っ」


 アーデルデと取り巻きの連中が怯む。

 こうなれば下手に動けないだろう――と、そう思ったのも束の間だった。


「平民風情がっ! 調子に乗りやがって……!」


 まだ続けるようだ。


「儀式の最中にみっともなく泣いていた生徒会長様が偉そうに……僕はこの学園の生徒として恥ずかしいよ。あんなのが我が学園のトップだったなんてね!!」

「……」


 セルティアが口を結ぶ。

 傷だらけのルダージュを召喚したときの話だ。どうやらほとんどの生徒たちにはまだ情報が行き届いてないようで、ルダージュを傷つけたのはセルティアの召喚魔法かもしれないと考えているらしい。勘違いで非難するのも見過ごせないが、アーデルデの話は要点がずれてばかりだった。『自分が生徒会長に相応しい』なんて妄言ばかりで会話が成立しない。


「ふん! ぐうの音も出ないといったところか」


 どう思い違えればそうなるのか。


「どうせ自分の地位が脅かされるのが恐くて泣いていたのだろ!」

「――違います」


 それはしめやかでありながら強い、否定の言葉だった。


「セルティア、これは挑発だ。乗っては駄目だ」


 どうした?

 まだ彼女と出会って間もないルダージュだったが、セルティアらしくないと思ってしまう。

 周りの生徒たちもアーデルデの言動に慣れているのか呆れ気味でうんざりしている。態々食って掛かるような行為は悪手だ。

 こんなこと理解しているはず。それなのに何故……?


「黙れ雑魚が! お前の召喚士はお前みたいな精霊を召喚して後悔しているんだよ! 本当は召喚獣を使って生徒会長の権威を示したかったんだよなあ!?」

「違います! 私は――」

「利用したかったんだろう」

「ぇ……?」

「精霊を利用してお前は目立ちたかったんだ」

「!? 私はルダージュにそんな事を望んではいません!」

「声が震えているぞ。図星か? 化けの皮が剥がれてきたな。なにが『私たちの良きパートナー』だ。自分は都合のいい道具のように扱いたいだけじゃないか!」

「……!」


 ……そろそろ平静を装うのも限界に達しようとしていた。挑発に乗るなと助言しておきながら、暴発しそうなのは他でもないルダージュだった。


「んん? いよいよ言葉も出なくなったか? またあの時みたいに泣きついてもいいんだぞ? そのダサい名前の人型精霊に。ルダージュ~ルダージュ~ってな! はははははは!」


 ――プツンと何かが切れた音がした。「あ、やっぱり無理だ。我慢できない」とルダージュは諦める。

 貴族とかそんなことどうでもいい。


「ルダ~ジュ~死なないでくださ~い。く、くははははっは――は?」


 耳障りな高笑いが掻き消え、アーデルデが下品な笑みを浮かべたまま硬直し、間抜け面を晒している。

 やつは今、足りない頭をフル回転させて必死に考えている。

 ――なぜ自分の眼前すれすれに“灰色の剣”が突き刺さったのか。


「な、ななななんだこれは!! 誰だ!? この僕に攻撃してきた愚か者は!」

「俺だよ」


 魔装で創り出した射撃用の大剣。むしろルダージュとしては最後の良心として、わざと外したことに感謝してもらいたいくらいだった。


「っ、人型! 何のつもりだ!」

「お前が俺の名を呼ぶから答えただけだ。まあ、あまりに気持ち悪くて思わず斬りつけたくなったけどな」

「なっ、この!」


 クスクスと周囲から笑い声が漏れ、アーデルデが赤面する。調子に乗って似てもいない猿真似をしていたことに気づけば恥ずかしくもなるだろう。


「つけあがるなよ! 人型が! お前みたいな雑魚、僕の敵ではないのだぞ!」


 自己顕示欲がトランプタワーのように建てられた男だ。

 あまりに脆く、吹けば倒れてしまいそうなほど危うい。


「そうだ! いいことを考えた! この僕、アーデルデ・グロウ・カスティーは模擬戦の相手に生徒会長であるセルティア・アンヴリューを指名する!」


 その台詞に演習場が騒然とする。

 模擬戦とは生徒同士が精霊を交え2対2で戦う演習のことだ。実戦の前に精霊の強さを体感するために行うとルダージュは聞いていたが、相手を選ぶことができるのは初耳だった。


「待ってください! 模擬戦は召喚士と召喚獣の魔力の平均値が近いもの同士で組まなくてはなりません。指名など認めるわけには――」

「おやおや生徒会長様は計算が苦手のようだ。僕たちとあなたはお互いに平均魔力が5ではないですか。僕と精霊は共に魔力5、そちらは2と8」

「そんな……!」

「はっはっは、生徒会長様が無駄に高い魔力を有してなければ挑戦できなかったが、これは僥倖。今ここでどちらが召喚士として優れているかギャラリーに教えてあげよう。それとも天下の生徒会長様は一生徒の挑戦すら受けることができない臆病者だと?」


 ずる賢いことには頭が回るようだ。周りには他の生徒の目があり、生徒会長という立場の相手に断れない状況を作り出している。この学園――いや、この世界の生徒会長というのは元の世界とは存在意義が異なり、強さの象徴的な役割を果たしている。だから負けそうな状況に見えても引くことができない。


 だが、これはルダージュにとってチャンスだった。勘違いしている馬鹿を合法的に叩き潰すことができるのだから。渡りに船とはこのことである。


「ルダージュ……」


 振り返るとそこには不安げな表情で佇んでいるセルティアがいた。この挑戦状を受け取っていいのか迷っているようだ。

 彼女のことだ。断ることはできなくても、ルダージュを庇いながら戦って無理をすることが目に見えている。そんなこと絶対にさせてはいけない。


「セルティア。俺は君の召喚獣だ」

「……え?」


 思いがけない言葉に彼女は目を丸くする。これから告げる言葉はルダージュにとっても恥ずかしいものだが、はっきりさせなければならないことだった。


「だから俺もパートナーとしてセルティアが馬鹿にされるのは我慢できないし、したくない。なにより君から貰った名前を馬鹿にされたのが一番腹が立つ。倒そう。俺たちであのいけ好かないやつに一泡吹かせてやろう」

「でも……」

「俺を信じてくれ。魔力なんてなくても霊力がなくても俺は強い。なぜなら君が召喚した最高の精霊だからな」


 彼女の言葉を逆手に取る。ちょっと卑怯だったかもしれないがこれぐらい言わないとセルティアは納得しないだろう。


「……ルダージュはずるい精霊さんですね」


 彼女は諦めながらもどこか嬉しそうにはにかんだ。


「話し合いは終わったのか? 終わったのならさっさと始めるぞ!」


 空気の読めないやつだ。水を差さないでほしい。


「だったら立会人はこの私が勤めよう!」


 一体どこから現れたのか。もう1人、空気を読まない男がルダージュたちとアーデルデが立っている丁度中間の場所に飛び込んできた。


「待たせたね!」


 短髪ブロンズがルダージュたちに向かってグッと親指を立てている。その光景は軽く殺意が芽生えるほど忌々しい。

 クレイゼルの登場は遅い……というか手遅れでしかなかった。

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